「私は士郎くんの彼女であって、アツヤの彼女じゃないの」
凛とした声が響き渡る。冷ややかな視線で見つめられ、俺の怒りは徐々に上がっていった。
「何言ってんだよ、俺は“吹雪士郎”だぜ?」
「…もう一度言って欲しい?私はアツヤの彼女じゃない」
「うっせーな…本当可愛げのねぇヤツ」
「いいから、早く士郎くんに身体を返して」
その瞳を見つめて、ぎり、と奥歯を噛み締めた。あいつはなんでも持っている。身体や冷静な判断力、それに、この女。別に身体はあいつと共有でもいい、でもこの女は、みょうじなまえは俺のものにしたかった。
「はっ、そりゃできねーな。残念ながら」
「…じゃあアツヤの間は私に話しかけてこないで」
「釣れねぇこと言うなよ…俺とお前の仲だろ?」
「私は、あんたが嫌いなの!」
ぱんっと乾いた音が室内に響く。なまえに触れていた方の手がじんじんと痺れてきてようやく気付いた。こいつに手を叩かれたのだと。
どうして思い通りにならない?あんな消極的なやつの何処がいいんだ。身体があるから?俺が借りているからなのか?ならば、俺の中で士郎の人格を消してしまえば、この女は完全に俺のものになるのか。
「…なんでだよ」
「は、」
「なんで、思い通りにならねぇんだ!」
先刻の音と比べ物にならないような鈍い音がした。俺の右手がなまえの後ろの壁に叩きつけられた音。接近した距離を更に埋めるように、驚いた表情を浮かべたままのなまえを俺は睨みつけた。
「身体があるから、あいつの方がいいのかよ。ないから俺が嫌いなのか…?」
「な、に…言って、」
「ふざけるな!なんであいつは、あいつは俺が欲しいものばかり持っていきやがる!」
一つくらい寄越せよ、なあ。どれでもいい、一つ、くらい。そこまで考えて、俺は口元を歪める。お前はなんでも持ってるんだ、だから。
俺はなまえの顎を強く掴むと、乱暴に口付けた。嫌がるのを力尽くで押さえ、深く、深く。
「ッは…アツ、ヤ…!」
「お前が持ってるモン、一つくらいもらってもいいよなぁ…兄貴」
その瞬間、俺の中の士郎が悲痛に叫ぶ声が聞こえて、俺は満面の笑みを目の前の女に向けた。
ねえ、ちょうだい。
(あれもこれもそれも、兄貴が持ってるモン全部、俺に寄越せよ)
***
お兄ちゃんのものはなんでも欲しいんです。
091225