雪が降って、辺りはイルミネーションに包まれる。もうすっかり日も暮れた空は星が輝いていた。今日は、クリスマスだ。
辺りを見渡せばカップルがたくさん。みんな幸せなんだろうな、いいな、そう思いながら歩く私は一人。寂しい、寂しすぎる。大きく溜息を吐いた。
大通りをゆっくりと歩く。もう少し行けばここを抜けて、暗い道を通って、家に辿りつく。寂しいのはそれまでだぞ、みょうじなまえ。家に帰ればそんなこと思わなくて済むんだぞ。自分にそう言い聞かせた。
ふ、と顔をあげるとイルミネーションの中に青く揺れるもの。見覚えのあるそれに私は近づくと、後ろから声を掛けた。


「風丸くん?」
「えっ、あ…みょうじ…?」


慌てて振り返って驚いたような表情を浮かべる風丸くんは雷門中の制服に白いマフラーをしていた。風丸くんは私と同じクラスで、女の子にとても人気のある男の子。陸上部だったんだけど、最近は助っ人としてサッカー部に行っているんだとか。
風丸くんが向いていた先に目を向けると、そこには可愛いくまとか、うさぎとか、そういった部類のぬいぐるみが飾られているウィンドウがあった。


「…風丸くん、こういうの好きだったの?」
「ま、まさか!俺じゃないよ」
「あ、そうなんだ。…彼女、とか?」


彼ならいてもおかしくないな、と思っていると風丸くんは慌てた声で「違う!」と言った。赤く染まった頬は寒さからか、恥ずかしさからか。はたまた両方かもしれない。


「…見てただけ、だ」
「ふーん。誰かにプレゼントしようとしてたわけじゃなくて?」
「……なんで分かるんだよ」
「だって、男の子がこんなところで一人でいるんだし」


辺りを見渡すと別に誰かと一緒に来たわけでも、誰かを待っているわけでもなさそうだ。自分の赤いマフラーに顔を埋めて、私は自分が吐いた息が白くなるのを見た。


「こんな寒いのに、お店の中には入らないの?」
「…俺、こういうのってよくわからないから…さ。入っても悩むだけだろうし」
「じゃあ、一緒に選んであげよっか?」
「え」


いいのか、と首を傾げる風丸くんに満面の笑みを返した。どうせ私も帰るだけだし、それくらい付き合ってもいいだろう。そう決めて私は風丸くんの手を引いて店内へ足を踏み入れる。暖房の効いた店内は外と違ってとても温かかった。


「みょうじ…」
「なーに?」
「その、手…」
「…あっ」


慌てて謝って風丸くんの手を離す。恋人でもないのに風丸くんの手を握ってしまった。こんなの、彼を支持する女の子に見つかったら恐ろしい目にあいそうだ。


「えっと…風丸くんがプレゼントするのはどんな人?」
「…片想いの相手」
「え、風丸くん片想いなの!?」


ありえない、彼ほどかっこいい人なら片想いなんてないだろうに。ただ風丸くんが気持ちを伝えてないだけだろうかと思っていたけど、風丸くんはそれ以上何も言おうとしなかった。


「みょうじはどういうのが好きなんだ?」
「私?うーん、そうだなあ…これとか、可愛いと思う」


そう言って私が手にしたのはふわふわのくまのぬいぐるみ。私は結構ファンシーなものが好きで、ぬいぐるみとかもたくさん欲しくなってしまう方だ。そのせいで周りにはかなり幼稚だと思われているけれど。
風丸くんはそれを見て首を傾げる。ああ、そっか、今は私の欲しいものじゃないんだ。


「あー、でもこれは私の好みだもんね。そうだなあ、年齢にも寄るんだろうけど…」
「みょうじはそういうのが好きなのか?」
「え?あ、うん…私は好きだよ」
「じゃあ、それで」
「え!」


そう言って風丸くんは私が持っていたぬいぐるみをひょいっと取り上げるとさっさと背中を向けてレジへ向かって行ってしまった。そ、それ私の好みなんですけど。大体年下じゃなきゃそういうのって好きじゃないと思うんですけど。止める暇もなく会計を済ませてしまった風丸くんはそれをラッピングしてもらって私の方へ戻ってくる。きょとんとする私。徐々に頬が引き攣ってしまった。


「ご、ごめん、あの、私の好みは人と違うと思うんだけど…」
「いいんだ。付き合ってくれてありがとな、みょうじ」
「い、いいのかなあ…」


なんか、申し訳ない。っていうか、片想いの相手にそれ渡すって、ああ、風丸くんの恋が無事実りますように…!わ、私のせいで失敗なんてこと、ありませんように!
そう胸のうちで必死に祈りながら店を出る。冷たい風が頬を撫でて、一度大きく身震いした。


「ううう…さ、寒い…」
「その…みょうじ、」


またマフラーに顔を埋めようとすると不意に名前を呼ばれて顔を上げる。隣を見れば風丸くんの目が泳いでいた。首を傾げて次の言葉を待つ。
すると彼は私の正面に回って一度深呼吸した後、ずいっと持っていた荷物を私に差し出した。それはついさっき包装してもらったばかりのくまのぬいぐるみが入っているはずの袋で。何事か分からず彼と袋を交互に見る。


「…ずっと、お前のことが好きだった」
「は…い?」
「つ、付き合って、くれないか…?」


もう一度風丸くんの顔を見ると、寒さかさっきの温かさか、頬は赤いままで。青い髪が風に揺れた。でもきっと赤さなら私も負けていないと思う。だって、頬がすごく、熱い。
差し出された袋に手を伸ばして、中に入っているであろうふわふわのくまのぬいぐるみを思い浮かべては頬を緩ませた。どうやら私のせいで彼の恋を失敗に終わらせることは、なさそうだ。

私は満面の笑顔を、真っ赤な顔のままの風丸くんに向けた。


MerryMerry
Merry Christmas!



091224/メリーメリー

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