私の彼、吹雪士郎くんはとてもかっこいい。普段のおっとりした性格も素敵だけど、サッカーをしている時の輝いた瞳、ゴール前まで一気に道を開いていくあのスピード。FWもDFもやりこなす吹雪くんは、私の自慢の彼だ。
でもそんな彼に対し、一つだけ気に喰わないことがある。それは、


「怪しいところですかあ?」
「うん、この辺にあるはずなんだけど」
「だったら私たちと一緒に回ろうよー!見つかるかもしれないしー」


彼が、女の子にとてもモテるということ。
今も宇宙人の隠された基地を探しに浪花ランドに来ているだけだというのに、吹雪くんの両腕には女の子が引っ付いている。これが初めてじゃないにせよ、ショックを受けてしまうわけで。一気に顔を顰めてそっぽを向いた。
私の周りに居る他のメンバーも頬を引き攣らせていて、塔子ちゃんが一言。


「毎回思うけど、なんだよ、あれ…」


うん、私もそう思う。心の中で呟いてみた。
もう一度視線を戻せばそこには吹雪くんの姿も、女の子たちの姿もない。ちゃんとした用事があって来てる遊園地だけど、でも、私と吹雪くんは今まで忙しくてデートらしいデートなんてしたことない。だから今回は、少しでもデート気分を味わえるかなって思ってたんだけど。


(無理、だなあ…)


誰にも気付かれないように溜息を吐いて、私たちは浪花ランド内を捜索し始めた。吹雪くんも居ないことで特に誰と行きたいということもなく、私は風丸くんと土門くんについていくことにした。














「それなりに見て回ったと思うけど」
「怪しいとこなんてないよなあ」
「普通の遊園地だよねぇ」


きょろきょろと三人で辺りを見回して、私はうーんと唸り声をあげる。一通り遊園地の中は回ったけど、怪しげなところなんて何処にもなかった。歩き疲れていた私は近くのベンチに腰掛ける。その両端に風丸くんと土門くんも座った。


「疲れたー」
「結構歩いたしな…」
「大体こんなとこに基地なんてあるのか?俺、信じられないんだけど」


隣で溜息を漏らす土門くんに思わず苦笑いを浮かべる。でも確かに私も信じられなかった、どうみてもただの遊園地だ。これの何処に基地なんてあるんだろう?暫く悩んでいると、風丸くんが「あ、」と小さく声を漏らすのが聞こえた。隣に目をやって、その視線の先を追いかける。


「…吹雪、くん」


そこにはさっきまで私のことをもやもやさせていた張本人、吹雪くんが立っていた。さっき一緒にいた女の子たちはもういなくて、少し不機嫌そうな表情をしている彼。…フラれてしまったんだろうか。そう思ったのは私だけじゃないみたいで、土門くんはにやにや笑いながら問い掛ける。


「なんだ吹雪、フラれたのか?」
「違うよ、結局知らなかったみたいだから、別れてきた」


不機嫌そうな表情は相変わらず、吹雪くんはずんずんと私たちが座ってるベンチに歩み寄ってくる。すると私の腕を掴んでぐいっと力強く引っ張った。


「うっ、わ!」
「おい、吹雪?」


風丸くんの焦ったような声が聞こえてきてそちらに視線を向ける。けれど私が何か言う前に吹雪くんが一言、驚いている二人に告げた。


「なまえちゃん、ちょっと借りるね」


そのまま私は何も言えず引きずられて行く。ちらりと背後に目を向けると、風丸くんと土門くんはお互いに顔を見合わせていた。





「なんで、風丸たちと一緒にいたの?」


私を引っ張っている間何も言わなかった吹雪くんが、観覧車の近くのベンチに私を無理矢理座らせてようやく口を開いた。目の前に立っている吹雪くんをベンチから見上げると、太陽に背を向けているからか影で少し暗い彼の顔は少し怖かった。


「…別に、ちゃんとした用事なんだから、相手なんて誰でもよかったし」
「ふーん…誰でもよかったんだ」


何が言いたいんだ。未だ不機嫌そうな吹雪くんの考えを読み取ることもできず、私は訝しげな表情を浮かべる。吹雪くんがベンチの背凭れのところに片手を突いて私との距離を縮め、私の顔にまで影を落とす。その距離が恥ずかしく、軽く目を逸らした。


「僕はなまえちゃんとデートしたかったのに」
「…え?」
「なまえちゃんはどうでもよかったんだ」


ふーん、と強調しつつ責めるような口調で言う吹雪くん。いや、待って。なんで私が逆に責められてるわけ?一瞬きょとんとしてしまうけれど、すぐにさっきの吹雪くんの様子が脳裏にちらついてもやもやした気持ちが広がる。


「…それを言うなら吹雪くんでしょ」
「どうして」
「私に声も掛けずに、他の女の子、と…」


言ってから後悔する。ああ、これじゃあただの嫉妬じゃないか。認めてしまうのも悔しく恥ずかしいので途中で言葉を切り、私は俯いた。すぐ近くにある吹雪くんから何も声が発せられず沈黙が続く。嫌な女だと思われてしまっただろうか。自分が嫌になる。
と、ようやく吹雪くんが口を開いてくれた。


「…最初からデートってことしちゃうと、ちゃんと探してるみんなに悪いと思ったから」
「…」
「少しでも情報を掴んでから、後でこっそりなまえちゃんとデートするつもりだった」
「えっ」


突然の言葉にぱっと顔を上げる。目の前の吹雪くんは少し申し訳無さそうな表情を浮かべていて、思わず言葉を失った。
それから吹雪くんはまた、不貞腐れたような言い方で続ける。


「結局あの子たちが知らないって分かって、すぐになまえちゃんを探して。マネージャーと一緒に居ると思ってたのに知らないって言われるし。それで探してみたら、風丸たちと仲良くベンチで話してるし」


すごく嫌だったんだよ、とストレートに気持ちを伝えてくれる吹雪くん。目の前の灰色の瞳が揺れて、そこから目を離せなくなる。それでも一方的すぎる、と私も負けていられずに口を開いた。


「わ、私だって、吹雪くんが女の子と何処かに行っちゃったとき、すごく嫌で、」
「う…ん」
「折角デートできると思ってたのに、できなくて…寂しかったんだから」
「…ごめんね」


私の髪を優しく撫でてくれる吹雪くんの手。とても心地よくて口元が緩んでいくのを感じていると、不意に前髪をかき上げられる。何だろうと視線だけを上げると同時、額に感じたのは柔らかい感触と軽いリップ音。


「ふ、吹雪、くん…!?」
「僕はなまえちゃんが好きなんだ」


これだけは絶対忘れないでね。そう言って縮まっていた距離をまた開けてにっこり笑う吹雪くん。額に口付けられたんだとようやく理解して、両手でそこに触れる。きっと今の私の顔は真っ赤になっていることだろう。
それから吹雪くんの白い手が私に差し出される。その手と顔を交互に見ると、吹雪くんはさっきとは違い今度は優しく私の腕を掴んだ。


「なまえちゃん、今からデートしよう」


そう言って笑う彼の誘いを断る理由など、一体何処にあるというのだろうか。私は釣られて微笑みながら、そっとベンチから立ち上がった。



純情青春宣言!

(デートのこと、みんなには内緒だよ)(もちろん!)



091219

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