※微裏






「ちょっと、なまえ本気?」
「もちろん本気」
「はは…嬉しいけど、普通逆だよね」
「気のせいじゃないかな」


私は今、大好きな一之瀬一哉くんを床に組み敷いている。彼の両腕は頭上で手首を一つに縛られていて身動きが取れないようになっているし、その手首を私が片手で抑えているんだから、彼の両手の自由は奪っていた。少なくとも私と彼は恋人同士なわけだし、本気で嫌がられることもないだろうと勝手に思い込んでいたのかもしれない。女と男の力の差とか、そういうのは全く視野に入れていなかった。
何故この状況にあるのかというと、説明は簡単。いつもされてばかりで悔しいから、その余裕な表情を崩してみたかったから。
私は口元に孤を描くと一之瀬くんの首筋にそっと舌を這わせた。いつも彼に、されているように。


「っ…」
「一哉くん、本気で嫌なら蹴飛ばしてでも逃げていいんだよ?」
「は…、今日のなまえは意地悪…だな」
「そう?」


びくっと肩を揺らす瞬間を私が見逃すはずもなく、それに気を良くしてとびっきりの笑顔を向けた。複雑な表情を浮かべた一哉くんはすぐに頬を引き攣らせ、すぐに視線を外す。普段と違うその様子に胸が高鳴った。


「私が意地悪なんだとしたら、一哉くんが可愛いからだよ」
「…なんだよ、それ。嬉しくな…い、っ…!」


一哉くんの言葉の途中、私はちゅっとリップ音を立てて浮き出た鎖骨付近に吸い付いた。強く吸うとそこには赤い小さな華が咲く。日に焼けた一哉くんの肌にも映える痕を見るととても満足して、すぐ近く何度もキスを落とした。その度に静かな部屋に響くリップ音と一哉くんの小さな息遣いが聞こえてきてドキドキしてしまう。


「っ…見えるとこにつけた?」
「どうかな、微妙かも」
「みんなに聞かれたらなまえに襲われたって答えるからね」
「…言わせないくらい苛めちゃうからいいもん」
「……とにかく、こんなこともうやめ…!?」


ぐいっと一哉くんの着ていたユニフォームの上着を胸元までたくし上げた。とても綺麗で、男の子って感じで、鍛えられてて。晒された胸板にそっと手を滑らせる。ぴく、と小さく動いたのが分かった。


「なまえ…」


切なげに私の名前を呼ぶ一哉くんと目を合わせる。薄らと情欲を含んだその瞳は私をドキドキさせるのに十分で、私も小さく名前を呼び返そうとする。「一哉くん」とたった一言、それ以上は何も言えなかった。
私が一哉くんに強引に口付けられていたからだ。


「っん…!」
「なまえ…っ」


駄目だ、このままだとまた一哉くんのペースに呑まれてしまいそうになる。私は慌てて離れようとしたけれど、ぐいっと後頭部を引き寄せられ、離れるどころかもっと深く口付けられた。…あれ?確か私は一哉くんの両手首を縛っていたのではなかったか。最初こそ考える余裕があったものの、深く甘い口付けに私の思考回路はもう使い物にならなくなってしまった。
それでも抵抗してやろうと一哉くんの上半身に触れていた手をまた動かそうとしたけれど、手首を強く掴まれて何もできなくなる。ああ、駄目だ、駄目だ!
室内に響く水音に聴覚までも犯されているようで、私は羞恥と内側から込み上げる熱に頬を染めた。


「ふ、ぁ…一哉、く…」


幾度かそれを繰り返した後、一哉くんは私からそっと離れた。お互いの間に透明の糸が伝って、一哉くんの舌が舐め取る。表情はさっきと違い口元が楽しそうに歪められていて、澄んだ瞳には先程よりも更に強い情欲が含まれていた。


「…駄目だなあ、なまえ。やるならもっとしっかり縛っておかないと」
「そ、んな…簡単に解ける、なんて」
「俺、結構器用なんだよ」


そう言う一哉くんの片手にはさっきまで手首を繋いでいた紐が握られていて、次いでにこっといつもの笑みを浮かべられた刹那、肩を強く掴まれ半強制的に位置が逆転した。目の前に広がる光景は天井と笑顔の一之瀬くん。きっと一哉くんに見えているのはフローリングの床と、頬を染めた私なんだろう。


「女の子にこういうことされたの初めてだったから、少し焦っちゃったけど」


優しい手付きで私の首筋を撫でる一哉くん。先程の行為で火照った私の身体には十分すぎる程の刺激で、大袈裟に跳ね上がった。


「そう悪くないね、興奮しちゃった」
「…じゃあもう一度最初からさせてもらえる?」
「それは駄目。やっぱり俺、されるよりする方が好きだし」


なまえが積極的なのは嬉しいんだけどさ、と首筋を這っていた指先がそのまま上がってくると私の顎を軽く持ち上げる。一哉くんは曝け出された喉元に甘く噛み付いた。


「ひゃっ、あ」
「次からは本気で取り掛かった方がいいよ、なまえ」
「やぁ、だッ…一哉く、ん」
「嫌?なら、さっきみたいにまた引っくり返せばいいだろ?ま、そんな余裕与えるつもりもないけど」


にやりとほくそえむその表情は普段からは想像もできなくて、でもかっこいいと思ってしまう私がいる。心底彼に惚れているんだと自覚して、言葉を失った。私の耳元に顔を寄せる一哉くん。吐息が耳朶に触れる。


「大丈夫、満足させてあげるから」


ぞく、と背筋を走る快楽。さっきのように苛めたいと思う気持ちなどもう既になくなり、私はこれからの行為に期待してしまう。ああこうしてまた、彼に溺れていくんだ。生唾を飲み込んで、震える腕をそっと一哉くんの首に回した。




さあ、おやつの時間だよ。


(もう、無理…!)
(あはは、大丈夫だって。あと三回くらい余裕余裕)
(さ、三回なんて、絶対、無理!)
(誘ったのはなまえなんだから、ちゃんと責任取るまで許さないよ)
(かっ…一哉くんの鬼ー!!!)




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