※微裏





「面白くねェな」
「何がです?」
「お前のその態度」


あくまでも今、俺は目の前の女をベッドに押し倒している。俺がプロミネンスのユニフォームに身を包むのと同じように、女…みょうじなまえは雷門中サッカー部のユニフォームに身を包んでいた。


「拉致られて宇宙人の男に押し倒されてんだぜ?少しは泣きついたりするもんだろ」
「さあ、それは人によりけりだと思います」
「その口調も、気に入らねぇ」


ぐっと顎に手を掛けた。それでも尚感情の篭らない瞳で俺を見るみょうじなまえ。心底気に喰わない。
以前沖縄で顔を合わせた時から気に喰わなかった。雰囲気というか、何処か人を探って冷たい視線を向けるコイツが。だから力で捩じ伏せてやろうと思った、それで、今の状況下にある。


「なんでそんな人を見下したような目をしやがる」
「何のことでしょう」
「答えろよ」
「意識してませんので」
「…本当にむかつくやつだな、女のくせに」
「女のくせに、というのは偏見かと」


私は貴方に屈した覚えはありません、と凛とした声が室内に響いた。
胸がもやもやする。苛立ちが収まらない。ああ、わかってる、本当はわかってるんだ、どうしてこうまでしてみょうじなまえに構うのか。でも、認めたくなかった。
顎に掛けた指先に少し力を篭めると、俺を更に苛立たせるその唇に噛み付くように口付ける。触れた唇は、言葉とは裏腹に温かかった。


「意外だな、心が冷え切ってるから唇も冷たいのかと思ってた」
「心が冷え切っているからこそ、他の部位に温もりが集まっているのでは」
「へぇ、自分が冷たいって認めるのか」
「自分のことですから、それくらい理解しています」


これくらいどうも思わないのか、みょうじなまえは未だ感情の篭らない瞳を俺に向けていた。ますます面白くない、その瞳に少しでも感情を灯させたい。俺の中で勝手な欲望がぐちゃぐちゃと混ざっていく。
鼻で一度笑ってやると、俺はまた口付ける。今度は深く、深く。呼吸する暇も与えないように幾度かそれを繰り返すと、耳に小さく声が届いた。


「ッん、ふ」
「は…、なんだ、そんな声も出せるのか」
「…人間、ですから」


思わず緩む頬を抑えずにそう言い放つと、変わらなかった表情に少し変化が見られた。眉間に少し皺が寄せられ。白い肌が上気してほんのり色付いている。そのことに気を良くした俺は、コイツのユニフォームの襟元を掴んでぐっと引っ張る。白い鎖骨が目に入った。


「南雲、くん」
「…俺の本当の名前、覚えてないのか?」


掠れる声で偽りの名を呼ばれる、それだけで高揚した。込み上げてくる笑いを喉元に押しとどめ、晒された首筋に爪を立てる。「あ、」と声が漏れたのを、俺は聞き漏らさなかった。


「おい」
「は…」
「これからお前を抱く男は誰か、よく覚えとけ」


それはお前が、これから一生忘れられない男だからな。
くつくつと喉の奥で笑う。みょうじなまえの顔を見上げると、その瞳には先程と違い何処か情欲的なものが含まれている。なんだ、こいつも期待してるんじゃないのか、そう俺に都合のいい勘違いをさせるには十分だった。


「バーンだ、みょうじなまえ」
「…私の前には、南雲晴矢くんしか、いません」
「強情なやつだな」


別に構わねぇけど。それだけ言うと俺は白い首筋に唇を寄せる。どうせなら見えるところがいい、と其処に強く吸い付いた。


「っい、あ」
「仲間に見せ付けてやれよ、羨ましいだろってな」
「…南雲く、ん」
「ま、簡単にアイツらのところに戻してやるつもりはねぇけど」
「どうして、」
「あ?」
「…どうして、私なんですか」


付けた痕に満足していると、不意に揺れる声でそう問われた。もう一度みょうじなまえを見上げると、困惑気味た表情を浮かべていて。
どうしてだなんて、それこそ何故わかりきった質問をする。俺は顔を近づけると、至近距離で微笑んでやった。


「決まってんだろ?そんなの、」




お前が心底嫌いだから。


(そこで何故みょうじなまえが悲しそうな表情をしたかなんて俺は知りたくなかったし、知ってしまうと続きができなくなりそうな気がした。だからまた深く口付けて、アイツのユニフォームに手を掛けたんだ。何も考えなくていいように。)




091208/大嫌い

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