※微裏




金属の重たい扉を肩で押し開け、目に入った光景に口元が緩むのを感じた。コンクリートの地面の先にあった鮮やかな色を見つけ、私は大きく口を開く。


「綱海せーんぱい!」


大きな声で呼びかけると寝転んだまま綱海先輩が私の方へ目を向けた。彼がいつもつけているゴーグルが太陽を反射してきらりと光り、それに続くように綱海先輩がにっこりと笑った。


「おう、なまえか。なにしてんだよ」
「先輩を探して三千里、です」
「そりゃ遥々どうも」


くすくすと笑う綱海先輩の隣に腰を下ろし、明るく輝く太陽の下、私は目を細めている綱海先輩の顔を見下ろした。


「敬語はいらねえって何度も言ってんのに」
「駄目ですよー、綱海先輩はよくても先輩のことを好きな三年生のお姉さま方に目をつけられちゃいますもん」
「はは!そんなもんいねーよ」
「さて、どうでしょうねえ」


彼は豪快に笑うけれど、実際のところいるのだ。綱海先輩は優しくてかっこよく、三年生だけに限らず学校中で人気のある人。一応私は先輩と付き合っているのだけれど、それは公にしていないことだ。だから私が彼と親しくすればきっと反感を買ってしまうことだろう。揉め事を避けたいタイプの私にとって、それはあまりいい話ではない。


「で、俺になんか用か?」
「そうそう!そうなんです。私、先輩におねだりしにきたんですよ」
「あ?」


何のことだか分からないといった具合に目を丸くする綱海先輩に対し口角をにいっと上げて笑う私。私はその表情のまま手のひらを上にして先輩に両手を突き出した。


「先輩、私いいことしたんで貝殻バッチください!」
「あー、そういうことか」
「昨日近所のちびっ子の遊び相手になってあげたんですよー!ね、偉いでしょ!それで、昔はよくもらってたけど最近綱海先輩のバッチもらってないなーと思って、急に欲しくなったんです」
「おいおい、それっていいことかよ?」
「えー!いいことですよー!」


綱海先輩は頬を引き攣らせ私を見ていた。けれどこのまま引く私じゃない!そういってもう一度ねだろうとすると、先輩は上半身を起こして額につけていたゴーグルを外した。


「ちょっと待った。でもよ、なまえ。お前は悪いこともしてるだろ?」
「…へ?悪いこと?」


にやりとほくそえむ彼の言うことが理解できず私は目を瞬かせるしかない。するとぐいっと先輩の顔が近づいて、人差し指が立てられた。


「なまえ、今は授業中だ。此処は何処だ?」
「え、屋上…ですよね」
「だな。つまり、お前は今授業をサボっている。十分悪いことだろ」
「ああ、そっか…って、そんなの先輩もサボってるじゃないですかー!」
「俺はいいんだよ、三年だからな」
「そんなの関係ないです!」


言い返すと先輩は勝ち誇ったような笑みを浮かべる。折角久々にバッチがもらえると思って浮かれてたのに、そう思いながら唇を尖らせていると、不意に私の頬に先輩の手が伸ばされた。


「悪いことをしたやつにはお仕置きが必要だよなあ?」
「お、お仕置きって…なんですかそれ!」
「ま、今決めたからよ」
「酷い!」
「酷くて結構」


ぎゃあぎゃあと喚いていると不意に顔に影が出来て、唇に柔らかい感触。先輩にキスされているのだと気付いたのは、暫くしてからだった。驚いた私はくぐもった声をあげながら先輩の肩を押し返そうとしたけれどそこは男女の力の差、まったく効果はないようだ。そんなことをしているうちに綱海先輩は何度も啄ばむようにそれを繰り返し、舌先で軽く私の唇を舐め上げる。ぞくりとした何かが背筋を走ったのと同時にやっと離れた先輩は、にんまりと口元で孤を描いていた。


「せ、せんぱ…い…!」
「悪いことをしたお仕置きと、いいことをしたご褒美を一緒にやるよ。ただしバッチじゃねえけどな」
「…あの、まさか…」
「大人しくしてろよ、なまえ」


楽しそうに声を弾ませ、先輩はゆるゆると怪しい手付きで私の身体に触れる。制服のカッターシャツの間から忍び込んできた手のひらが直に肌に触れるとそのひんやりとした温度に思わずびくりと身体が跳ねた。静止の声を掛けようと顔を上げるとまた綱海先輩と唇が重なって、少しずつ身体の力が抜けていってしまう。


「ん、…っ」
「サボるお前が悪いんだからなー」
「こ、こんなの…全然、ご褒美じゃないです…!」


せめて訴えようとキスの合間にそう言葉を零すと綱海先輩の手がもぞもぞと服の中で動き、何かに手を掛けたことに気付いた。この人は、本当にここでするつもりなのか!思わず青ざめる私と対照的に満足げに笑う先輩は私の気持ちを知ってか知らずかそのままなんの躊躇もなく下着のホックを外した。


「もう諦めろよ」


そう言いながらもう片方の手で先輩は自分の首にかかっていたネクタイをするりと抜き取ってしまった。そんな彼の目がぎらぎらと光っているのを見て、ああ、もう私は逃げられないのだとようやく思い知る。生唾を飲み込み、私は「このオオカミめ」と呟く。
先輩が満更でもないように、笑った。




100331/ご褒美はお仕置きで

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -