携帯のディスプレイを見て時間を確認し、はあっと大きく溜息を吐く。それを私は自分の部屋にきてから何度繰り返したことだろうか。時刻は既に日付を越えていてカーテンの向こう側は疾うに闇に包まれている。星の瞬きと街頭が町を照らしているけれど、それが深い闇であることに変わりは無かった。


「あいたい…」


そう唐突に呟き脳裏に思い描くのは爽やかな青い髪の彼。風丸一郎太は私ことみょうじなまえの好きな人であり、俗に言う彼氏と彼女という関係なのだ。ただ風丸くんと一緒にいるだけで幸せになれるし、お喋りするとつい楽しくって口が閉じなくなる。帰りに一緒に手を繋いだりとか、また明日ねって笑いあったりとか、そういう当たり前が幸せで仕方が無いのだ。だからこそこうして離れている夜、彼を想うと気持ちがやや右下がりになってしまうわけで。微妙な心境でじいっと携帯のディスプレイを見続けていると、不意に手の中で携帯のバイブレーションが鳴った。突然のことに驚きながら名前を確認すると同時に、気持ちはぐんと右上がりになる。通話開始のボタンを押して、携帯を少し強いくらいに耳に押し当てた。


「もっ、もしもし!」
「あ、みょうじか?起きてたんだな、よかった」
「うん、こんな時間にどうしたの?」


本当はそんなことが言いたいんじゃなくて、電話してくれてありがとう、あなたの声が聞きたかったのとか、そんな可愛いことを口にするつもりだった。けれどなんだかそれも気恥ずかしく、結局言わず終い。すると携帯の向こうから少し歯切れの悪い声が聞こえてきた。


「ちょっとさ、…みょうじに逢いたくなったんだ」
「え、」


驚いた、風丸くんも私と同じことを思っていてくれたのか。そう思うとなんだか嬉しくて頬が緩み、自然と「私もだよ」と返していた。風丸くんの照れたような笑いが携帯から聞こえてきて、なんだか胸が温かくなる。


「そうか、ならよかった」
「なにが?」
「みょうじ、窓あけて」


どくんと心臓が跳ねた気がした。だってそんな、少女漫画みたいな展開あるわけないでしょう。日付も変わったこんな時間に、そんなこと。そう思いながらそうっとカーテンを開く。すると目に映ったのは満点の星空と、私の家の前に立っている男の子。


「かぜ、まる…くん…!」
「こんばんは、みょうじ」


ぽかんと口を開いたままゆっくり窓を開けると家の前に立っている風丸くんがにっこり笑って、携帯越しの声とその口の動きが重なった。


「天体観測なんてどうだ?」


私は次第に頬が緩んでいくのを感じながら耳から携帯を離して、通話終了のボタンを押す。それから少し窓から身を乗り出して、こう言った。


「すぐ行く!」


ただ一緒に居れるだけで幸せで、彼の声を聞くだけで心が満たされる。その幸せをまた噛み締めながら私は大きく息を吸い込み、窓を閉めた。



100323/星空マーチ

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