※アツヤがかわいそう
※アツヤ→ヒロイン→←士郎




強く腕を引っ張る。それでも目の前の男は私の腕を離そうとはしなかった。所詮男女の力の差なんて知れている、けれど私は何度も何度も抵抗し続けた。ただ、嫌になったのだ、目の前の男が。


「もうっ、別れたいの!あんたには疲れたの!」
「おいおい、そんなこと言うなよ」
「うるさい!離してっ…」
「いいのか?本当に別れちまっても」


腕に掴まれたままの彼の手の力が実際には変わってないのになんだかすごく強まったような気がして、私は抵抗するのをやめた。その言葉が持つ意味を私は分かっている。けれど分からない振りを、馬鹿な振りをするのは僅かな希望に掛けてしまったからだ。


「どういう…意味よ…」
「士郎はいいのかって意味に決まってんだろ」
「っ…」
「俺から離れるってことはつまり士郎とも離れるって意味になるんだぜ?」


いいのか、それで。にやりと笑いながらアツヤはそう言う。彼は分かってる、そう言われると私が彼から離れられないのだと。何も言えなくなって俯く私の頭上でアツヤがくつくつと喉を鳴らした。


「なまえ、あんたは“吹雪士郎”を愛してる。違うか?…違うなら言ってみろよ、『吹雪士郎なんか愛してない』って。そしたら今すぐお前の腕を離して別れてやる」
「…わたし、は…」
「言えよ、なまえ」


私は吹雪アツヤとは別れたくても、吹雪士郎とは別れたくないのだ。だから抵抗できないし、彼の中の何処かで士郎が聞いていると思うと、私は何も言えなかった。私は本当に、心から吹雪士郎が好きだから。


「…俺も、吹雪士郎なんだけどな」


さっきまでと違う、少し悲しげな声が頭上から降り注いだかと思うと、震える私の身体は彼の腕に優しく包まれていた。アツヤの顔を確認できない私はただ戸惑いを抱いたまま、静かに唇を噛み締めるしかなかったのである。




100321

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