「今日リオーネと一緒にお出かけしたのよ!」
「そう」
わたしの目の前で目を輝かせながら話し続けるのはみょうじなまえ。一応わたしが好きになった女であり、なまえもわたしを好いている。だからこそ彼女は今こうしてわたしの部屋に来ているのだが。
「それでね、可愛い髪飾りを見つけたの!」
「ふうん」
それにしても彼女の口は休まることを知らない。一度開けば閉じることを忘れたかのように次々と言葉が飛んでくる。最初こそ驚いたもののそれが誰にでもそうだというわけではないらしい、わたし以外の前では普通なのだ。ただわたしと話している時はどうにもこう、喋りだすと止まらない、と。それが彼女なりの一種の愛情表現なんだろうということを理解してからは、それすらある意味では愛しいと思う。
「リオーネと一緒に買って、お揃いにしようねって約束したんだあ!今度ガゼルも一緒に行こうね!」
「考えておこう」
「あっ、そういえばこの前…」
ほら、リオーネとの買い物の話が今既に変わろうとしている。わたしが簡素な返事しか返していないことを気にしている様子はないようだ、ただ聞いてもらえれば嬉しいのだろうか。ちらりと目線を向けるとなまえはにこにこと笑顔を浮かべたままその小さな唇を忙しなく動かしている。さて、一度静かにさせようか。そう思いなまえの肩にそっと手を添えると途端に止まる彼女の唇。その瞬間を逃すはずもなく、わたしは彼女のそれに触れるだけの口付けを落とす。そっと離れてなまえの顔を覗き見ると先程までの勢いは疾うに消え頬を林檎のように赤く染めていた。
「焦らなくても全て聞いている。もう少し落ち着きなよ」
そう言ってみせれば次第に照れたような笑みを浮かべ、小さな声で「ありがとう」と呟くなまえ。きっと彼女の話に付き合えるのはわたしくらいで、彼女のこんな可愛らしい表情も、可愛らしい仕草も、全てわたし以外誰も知らなくていい。そう考えるわたしこそなまえの言葉に溺れているのではないかと思いながら、わたしは釣られて口元を緩めていた。
100310/わたししか知らない