Act.5
Let's mission



数時間汽車に揺られた後、私たちは例のルーマニア北部、アクマの密集地にたどり着いた。アクマの密集地なだけあってここらの環境状態はお世話にもいいとは言えない。木は生い茂り花など枯れ果て、よく見ると小動物の死骸までごろごろ見える。わー、これは酷いな。土埃も酷くどう見ても人が住めそうに見えない。なるほど、だからアクマが密集するのか。

崖の上からうじゃうじゃと密集しているアクマを見下ろしながらレナは眉間に皺を寄せた。

数百、ってことかな。ここまでアクマが一カ所に集まることも珍しいな。見る限りレベル1が多いけどこれ以上アクマが増えるとレベルが強いアクマは弱いアクマを食べるという、共喰い現象が起きてしまう。アクマにも弱肉強食が成立するんだから驚きだよね。








「いつまでも呆けてんじゃねえ邪魔だ」

「神田、どうして君はそんな言い方しかできないんですか」

「本当のことを言ったまでだろ」






イノセンスを構えてレナを睨みつける神田の目はまるで敵を見ているような目だ。アレンはそんな神田の言動にため息を着いた。







「神田は誰に対してもこういう態度なので気にしないでくださいね。よく睨むし」

「見つめ合うと素直におしゃべりできないタイプなんだよ」

「お前すげえ発想だよなー」

「そこの馬鹿女を今すぐ教団に強制帰還させろ」






そんな怒ると綺麗なお顔が台無しなのに…!気になってたけど馬鹿女ってもしかしたら私のことを言っているのだろうか。






「ノンノン。神田、私の名前は一条レナだって教えたでしょう?もう忘れちゃったの?全くドジっこだなあ」

「覚える価値もない人間の名前なんかいちいち覚えてられるか」

「じゃあ頭の悪い神田にまた教えてあげるね!ほらレナと言ってごらん。リピートアフターミー。さん!はい!」

「声がでけえんだから耳元で喚くんじゃねえ!不愉快だ!」





ちゃんと聞こえるようにわざわざ耳元で囁いてあげたのに怒られてしまった。何も悪いことなんてしてないはずなのに。乱暴に手を振り払われ、神田はアクマを破壊すべくイノセンスの六幻を抜刀した。そんな神田の背中を眺めていたレナの背後にピシャーンと雷が落ちた。

私は気づいてしまった。このツンツンした冷め具合は、もしかしてこれが、噂に聞くツンドラではないか…!?素直になれないのではなく、ただのツンドラだったのか…。







「はいツンドラとは、その名の通りツンツンしていてドライなこと!まるで永久凍土のような冷たさを指すのです!ついでに私はツンドラも個性の一部だと思いますのです。」

「ギャーギャーとうるせえな!アクマよりお前を破壊してやろうか」

「シッ!神田はさっきから声が大きいよ。ったく、そろそろ任務遂行に集中しなきゃダメだよ?」

「こ、のっ…誰のせい、だと!」

「ステイ!ユウ、ステイ!イノセンスはアクマに使うものさ!」






神田がレナに切りかかろうとした際、ラビが羽交い締めをするかのように取り押さえた。だがラビより神田の方が力が強いため、すぐに神田の身体は自由が効くようになる。

レナ自身任務に集中していないのだがそれを棚上げするような発言に、神田のお怒りパラメーターも大いに枠から突き出るほど怒りのボルテージが上がっている。だが残念なことに怒らせた張本人は至って気づいていない。







「アクマを破壊すれば神田の意味不明な怒りも少しは治まると思うの。さあいけ神田!アクマをぶっ壊せ!」

「人任せにすんじゃねえ!テメエも行くんだよ!」

「いや…私は応援歌を歌わなきゃいけないという重大な使命があるんだけど…」

「いらねえよ」

「フレー!フレー!かーんだ!」

「いらねえって言ってんだろ!」







果たしてそれは応援歌なのか。思わず突っ込みたくなったアレンとラビだが、面倒事に巻き込まれるのはごめんだったため静かにイノセンスを発動した。

神田はさっきから怒ってばかりだ。そんなに怒ってばかりだと身体にもよくないのに。やっぱりカルシウム不足だ神田は。そうだ…!小魚か牛乳をプレゼントするの忘れてたよ!ちゃんと渡さなきゃ!






「神田は小魚と牛乳どっちが、………あれ?」

「神田ならもう下ですよ」






アレンが崖の下を指した先には神田が無表情でバッサバサと六幻で刻んでいた。うわー!なんて返り血が似合う男なんだ!







「レナは長期任務から帰ってきたばかりですからあまり無理はしないで下さいね」

「あ、うん。ありがとう」







柔らかく微笑むアレンにちくりと良心に針が突き刺す。うわあああ、ごめんよアレン。任務なんかじゃないんだけど、ね。ぎこちなく笑い返せば「じゃあお先に行ってますね」と、軽い身のこなしで崖からひょいっと降りて行った。

……じゃあ私も行きますかな。鉄扇の形をしたイノセンス、風花を手に取りアレンに続こうと足を出した、

直後。





「がぶぉ…っ!?」





誰かに後ろから喉元にかけて締められた。びっくりしてつい女とは思えないほどの声を出してしまったじゃないか。

誰…!?勢いよく振り返ってみるとそこにはにやにやした顔でラビが首に腕を回しているではないか。それはもうとんでもないほどにやにやした顔で。たれ目のせいなのかエロフェイスがとてもよくお似合いだ。羨ましい…たれ目。







「なに?」

「いやー、お前さ実は長期任務なんて行ってないだろ?」







何で、知っている…!?
言っておくけど私は誰にも話してないしそれをチラつかせることも発言していない。っていうかどうして今この状況で!?首が締まったじゃんか!もっと時と場所と場合を考えて言おうよ!TPO大事!TPO!

きっとこのテンションで否定すれば焦っていることがラビにバレてしまう。あくまで冷静に。冷静にいくんだ。

唾を飲み込み、未だ首に腕を回しているラビの腕を首元から離せば呼吸が楽になった。僅かに空いた空間に身体を少し捻らせラビの目を見つめた。ほんの一瞬だけだが、ラビの眉根がぴくりと動いた。目を見ながら冷静に答えたら誤解だろうと思ってくれるかもしれない。