教団を出発してから早数時間。汽車に乗ってから約二時間。






「ふおおお海だ海だ!海やっほー!イエーイやっふおお!」

「ちょっと、少し落ち着いてください」






「おわー山だよ山!見てよビッグマウンテン!ヘイアルプース!」

「残念ながらこれアルプスじゃねえし。あああもううるせえさあ」






「うわなんだあの人。神田神田!あの人すごいハゲてるね神田も余裕こいてると将来そうなるのかな怖いね〜!」

「テメェは黙って座ってらんねえのかよ!クソ女!」


「え、なに怒ってんの?ひっどい短気だねー」

「なに不快そうにしてんだふざけんな!」









act.4
Red arm









汽車の窓から見える景色に子供以上にはしゃぐレナ。普通にはしゃぐならまだいい、綺麗だね〜くらいなら。だが彼女は二十歳前だというのに年齢に相応しくないはしゃぎ様だ。

この超がつく程のテンションの高さに三人は内心うんざりしていた。特に教団一キレやすいと言われている神田は、彼女のいちいち感に障る言い方や頭の悪い行動が非常に不愉快で仕方がなかった。

任務前にラビが予想していたことがこんなにも早く結果に出るなんて、ラビ自身も思っていなかったであろう。







「…なんか疲れました」

「アレン元気出して。ほら山が綺麗だよ、山見て癒やされなよ」

「トンネル入りましたけど」

「十秒見るの遅かったね」






アレンたちの疲れの原因がレナだとは本人はおそらく、否絶対気付いていない。(人生すごく楽しそうですねこの人。世渡り上手そうだ)
窓に映る彼女の姿を見ながらアレンは心中に呟いた。






「あーあ、なんかねむいや」

「口より足閉じろよレナ、見えるぜ」

「ラビはズボンのチャック開いてるよ」

「げ!?」

「嘘だぴょーんはいドンマイ」

「…お前ね、」







レナの冗談にラビは呆れるようにため息をついた。初めは馬鹿みたいに景色を見ながらはしゃいでいた彼女も長い時間汽車に乗っていたせいか景色を見てはしゃぐことに飽きてきたみたいだ。おまけにこの心地よい揺れが眠気を誘う。

確かに僕も疲れた。寝れる時間があるなら寝てしまいたいな。きっとまだ任務地に着かないと思うし。ラビから足を閉じろと注意を受けたレナは渋々足を閉じた。仮にも女性でしょうリナリーなら絶対こんなことしない。







「分かったわかった、閉じればいいんでしょ。スパッツ履いてんだから別にいいのに。ねぇ神田」

「知らねえよ話かけるな」

「イッツクール!!」





レナは隣のボックス席に座っている神田に同意を求めて話を振ったが見事冷たくあしらわれる。普段から冷たいクソ野郎だと思っていましたが、レナにはさらに冷たい態度で接しているように見えるのは気のせいかな。きっと神田の中でレナの第一印象があまり良くなかったんでしょうね。酷いパッツンだ。

でも彼女は神田の冷たい態度を気にしていないのかはたまた気付いていないのか神田は照れ屋さんなのかな、と言いのけた。…確実に照れ屋ではないと思う大物だこの人。

なんてことを考えていたらぱちりとレナと目が合った。






「アレンが私に見惚れてた…」

「いやいやいや。たまたま!たまたま目が合っただけですから」

「すげえ全力で否定すんのな」

「アレンは照れ屋2号ね」






1号は神田でって言った瞬間、人を殺せるんじゃないかってくらいの殺気で神田はレナを睨んだ。

…凄みありすぎでしょう。いやそれよりも僕は別に照れ屋でもなんでもない。きっと神田はこういう彼女の言動に腹を立てて冷たく当たるのかもしれない。





「神田も私に見惚れてた」



だから!そういう発言がね!腹を立てるんだと思いますけど!!






「アレン任務先にも着いてないのにあんまり突っ込むと後で疲れるから止めた方がいいぜ」

「…ええ、そうですね」

「アレンってば疲れてんの?きっと鍛えが足りないんだよ。今度一緒に鍛錬しようね」

「は、はあ。ありがとうございます」






アレンは突っ込みが本格的に追いつかなくなってきたみたいだ。雑な返答がその証拠だ。どこかずれてる彼女と会話をするのは体力がいるんだと今回の任務で彼は学んだ。「まだ終わってないよアレン君!」うわっどこからかコムイさんの声が聞こえた。不思議だ。







「鍛錬するなら毎朝ユウが森でやってるからそこで一緒にやってくるといいさ」

「余計なこと言ってんじゃねえよクソラビ!」

「神田からのお誘い!?過激!」

「そうそうお誘いお誘い。二人だけで親睦会でもして来いよ」

「馬鹿ウサギ何のつもりだ殺すぞ!」

「なるほど親睦会…即ち過ち犯すってことか。そんな急に困るよ身体だけの関係なんて嫌だよ!」






彼女は何を勘違いしているのか親睦会をやましい方向に思考を巡らしている。嫌だとか言いながら顔がにやついているじゃないですか。そもそも親睦会って二人だけでやるものなのか。

ラビがレナにそんなことを言ったのは、僕が彼女の言動に困っていた姿を見かねたからだろうか。そうかこれはラビの助け舟なんだ…!






「ありがとうございますラビ!そんなことを言ったら絶対、神田に六幻を突きつけられるって解っていたはずなのに僕を助けてくれるなんて君はなんて優しいんだ…!僕はこのことを一生忘れません!神田に切られないよう頑張ってください!」

「説明臭ぇな!しかも俺何のことかさっぱり」

「過ちは犯さないけどパーティーはしようね。クラッカーも忘れずに」

「するか!おいウサギ全部テメエのせいだ!」






六幻をラビ自身のイノセンス、鉄槌で抑える。ギチギチと鈍い金属音が汽車内に響く。

別にラビはアレンのためを思ってレナに神田が鍛錬していることを話したわけではない。ただ単に彼女の言動に振り回される神田が見たかっただけというお茶目極まりない話なだけであった。神田からすればかなり迷惑なことである。レナのそわそわした様子からすると本気で親睦会をやるつもりだ。