「…………。…もう、あさ」




夜は明け、窓からは朝日が差す。レナは小鳥の鳴き声と朝日の眩しさで目を覚ます。枕元にある目覚まし時計は彼女が力強く押したであろうが為、びよんとバネが飛び出てしまい目覚まし時計の役割を果たしていない。虚ろな目で体をゆっくり起こし、まだ脳が十分働いていない頭を乱暴に掻く。

窓から覗く日差しと早朝から囀る小鳥を暫く呆と見上げていた。チュンチュンチュンチュン朝からお疲れさまっすー。


時計を見るとまだ早朝5時30分。おじーちゃんおばーちゃんが起きる時間帯じゃないですかぁ。個人的にもっと寝ていたかったなあ、もう一回寝るにもなんか目も覚めてきちゃったし。疲れはとれてるようだし起きるか。

窓を開けてベランダに出ればそこには青々とした空が視界に広がる。先ほど鳴いていた小鳥達がベランダの柵に留まりながらまた可愛らしい声で囀っている。レナは思わず笑みを漏らした。





「焼き鳥食べたい」






小鳥たちはレナの言葉が理解できたのか分からないが、彼女の言葉を聞いた瞬間すぐさま羽を広げてどこかへ飛んでいってしまった。

…肉が逃げたか!

寝ぼけているため今の彼女からすると小鳥たちはただの肉にしか見えなかったようだ。至極残念そうな表情を浮かべて部屋に入っていった。よいしょ、と体を伸ばして軽くストレッチを始める。ストレッチは彼女の毎日の日課であり健康の為だと云って欠かさず行っている。

疲れも取れたし、着替えて食堂でも行こうかな。ジェリーのご飯が食べられるなんて久々だし。ありがたやありがたや。

クローゼットに入っていた団服を取り出して、ワイシャツのボタンを外す。久々に着る団服、懐かしい。

レナの服のデザインはタンクトップのような構造で両腕にアームウォーマーを着用。下はプリーツスカートに、見えるか見えないかくらいの短いスパッツ。シンプルに装飾されたパンプスを履いて準備は完了。あ、あれパンプスのストラップが上手く着けられ、あれれれ…よし完了だ。クローゼットを閉めてチェーンを通した指輪をポケットに入れた。






「あっイノセンス」






扇子の形をしたを装備型のイノセンス、風花(カザハナ)を手に取りそれをホルダーにしまう。壁に貼ってある彼と一緒に撮った写真が目に入る。







「行ってきます」





写真に微笑みかけてそう一言残し、食堂に向かうべく部屋を立ち去った。







△▼







「おー、ガラガラだ」







いつも人で賑わっている食堂は早朝のせいかいつもより人数の割合が少ない。あと数時間もすればここも満席になるほど人で埋まるであろう。人が少なければ注文も早く出来る、早く来て正解じゃんラッキー。







「ジェリー注文いーい?」

「はぁーいってレナじゃなぁい!三年振りくらいかしら!何だか大人びたわねー」

「成長期だからねえ」






三年振りに会うジェリーは相変わらずオカマで全く変わりがない。ぴょんぴょん飛ばすハートをさり気なく手で払いのける。あれだよね言っちゃダメとは思うけど朝から目に毒だよね!出来れば直視したくないな!前いたときより顔の距離もなんか近くなってるし!

さり気なく失礼極まりない思考を巡らしているレナだがあくまで悪気は無い。







「今とんでもなく失礼なこと考えてたでしょ」

「目に毒!」

「アンタ料理に毒入れるわよ」

「やだなあ冗談だって。じゃあバターロールにコーヒー、サラダにデザートのフルーツタルトふたつでお願い」






レナが料理を注文するとジェリーはちょっと待っててねーんっと軽い口調で厨房に戻って行った。

彼女の云うフルーツタルトふたつとはピースでいただくのではない。ホールでいただくという意味だ。朝からケーキをホールで食べるなんてどんだけ胃が元気なんだよ。と思わず突っ込みたくなるものである。彼女自身、大して甘党ではないのだが何故かフルーツタルトだけはこのくらい余裕で食べれるらしい。







「はーいお待ちどーんっ」

「ありがとジェリー!」





いつもながら料理が出てくる時間が短くて関心する。それだけではない、味の方も最高に美味しいのだ。こんな美味しい料理を作るジェリーだ、欠点なんてものは無…うそ、一つあった。彼の女口調だ。オカマさんだから仕方ないのだけど久々に聞くとそれなりの攻撃力がある。まあ慣れてしまえばいいのだけれど。

適当に空いてる席に座って手を合わせて有り難く朝食を頂くことにした。








「んまい」







一口大に千切ったバターロールを口へと運ぶとバターの風味とほんのりした甘さが口の中に広がる。熱い珈琲を適度な温度に冷まし、その匂いと苦さを堪能した。久々に食べたけど本当に美味しい。修行していたころは結構食事が偏っていたからなあ。これからは普通にご飯を食べれるのだと思うとつい顔が綻ぶ。

もごもごと次々にパンやらサラダを口に運んで行き、デザートのフルーツタルトにありつける。有名なお店のフルーツタルトも美味しいけど、やっぱ、ジェリーのフルーツタルトが一番美味しいと思う。ジェリーは天才だ、よっこの世界一の料理人め!

手でピストルの形を作ってジェリーに打つ真似をするが本人は気づいていない為全くの無視。レナ本人も馬鹿なせいか打つ真似をして満足している。気づいてないなどどうでも良いのだ。やはり彼女は第三者から見ると頭のネジが何処か足りないように思われる。

ワンホールのフルーツタルトを平らげ、残りワンホールのタルトにフォークをぷすりと刺す。ふと、何か気配を感じて廊下へと視線を移してみると白衣を身に纏った長身の男が挙動不審な動きをしているではないか。

あれコムイじゃん。朝早くからどうしたんだアイツ。粗方理由は分かる、また仕事をさぼってるんだろう。







「コムイさんやーい!何してんのー!」







廊下に向かって大声でコムイに話しかけると奴の表情はパッと明るくなってあたしの座ってる席に近づいてきた。






「いたいたレナちゃん!まだ寝てるかと思って部屋見に行ったのに居なかったからさ僕、探してたんだよー」

「あらまー。今日は特別に早起きなだけだよ焼き鳥に起こされちゃって!」

「一応突っ込んでおくけど君は肉と会話ができる超次元人間かい?」

「コムイ室長ともあろう人間が私にそんなことできると思ってんの?」

「……いや、そう、だよね。なんか、ごめん」





首を傾げながら真顔で即答されるものだから、コムイは自分が悪くないのについ謝ってしまった。




「で、どうかしたの?こんな早朝から」

「あぁうん、レナちゃんこの後ひまかな?」

「僕と一緒にデートして欲しい、…か」

「話を飛躍しない」







手に持っていたファイルで頭をぽこんと殴られた。そこまで真っ向否定すること無いのに。あたしだって冗談なのに。レナジョークよレナジョーク。








「食事を終えたら僕と一緒にヘブ君の所について来てくれないか?」

「いいけど何で?」

「君のシンクロ率を再度計りに行くんだよ」