「兄さんレナ連れて来たわよ」

「ありがとうリナリー。レナちゃんお帰り」

「ただいまコムリー!」

「混ざってる混ざってる」




科学班のみんなはリナリーが連れてきた女性を見るなり嬉しそうな声を上げる。この女性はさっきのフードを被っていた人だ。画面上ではイノセンスらしきものを発動していたから、エクソシストだろうか。

みんな彼女に久々だね、お疲れ様とか言っているし、僕が入団する前にいたってことなのかもしれない。




「レナおかえり!」

「相変わらず元気だなお前」

「ジョニーにタップ!私から元気を無くしたら何が残るというのよ」



へにゃりと笑う彼女にジョニー達もつられて笑った。それにしても綺麗な人だ。色素の薄いピンクブロンドの髪色に透けるような肌。少しつり目な褐色の瞳は顔の作りで一際目立った。欧州と東洋のハーフだろうか。



「アレンくぅーん?どうしたのかなボーっとしちゃて。まさかレナちゃんに惚れちゃった?」

「はあ?違いますよ。見たことない方だなって思って見てただけです」




気づかれないように彼女を見ていたらコムイさんが後ろから話かけてきてビックリした。コムイさんはなんだかニヤニヤしながら僕を見下ろす。言っておきますが見惚れたとかじゃないですから。コムイさんに催促すると笑って誤魔化された。

再び視線を彼女に戻す。彼女の名前はレナさん、と言うらしい。




「あの彼女は──」



言いかけたところでドアノブがガチャリと開いた。




「ただいまさー」

「邪魔だモヤシ突っ立ってんな」



突如後方から聞き覚えのある嫌味が聞こえ振り返ると、ああ…やっぱりパッツンとラビだ。誰がモヤシですか。ふざけんな単細胞クソパッツン。アレンは神田を睨みつけるが神田はそれを無視して分厚い書類と煌びやかに光る物質をコムイに渡す。




「おいコムイ、報告書とイノセンスだ」

「今回は当たりだったんだね、お疲れ様二人共」



そういえば今日、任務からラビと神田が帰ってくるってリナリーが嬉しそうに言ってっけ。ラビはともかく神田はあと1ヶ月くらい顔合わせなくても良かったけど。本人には言わないが捨てるように心中で言葉を吐き出した

「ばあぇっくし!!」

「!!?」



え、今のなんだ?誰かのくしゃみ?というよりくしゃみだったのか。そう思って声の持ち主を辿るとレナさんだった。…まさか、この人が?いやないでしょ。まさかこんな親父くさいくしゃみをするはずがない。



「ばっく、…しょい!…しょおーい!」




ああ、貴女でした、か。見た目とのギャップ、ありすぎるでしょ。




「レナ、もっと綺麗にくしゃみしないと。…ね?」

「でもちゃんとくしゃみしないとした気がしないんだ」



彼女はリナリーに渡されたティッシュで勢いよく音を立てて鼻をかむ。女性らしからぬ鼻のかみっぷりだ。よく言えば潔い、悪く言えば少し汚い。「ズビー!!」本当に、本当にギャップがすごい方だ。




「コムイ、何だコイツは」




汚えくしゃみ女。そんなオーラが滲み出ている神田は不愉快そうにレナさんを睨む。そんなことしたら彼女に失礼なのに。どうして神田はいつもこういう態度なんだろう。そんなことを頭の隅で考える。まあ神田も神田ですがラビもラビだ。おいラビ、鼻の下伸びてますよ。またストライクとか言うんだろうか、今のラビの顔はものすごいアホ面だ。



「え…ああ、…あー、と…彼女はエクソシストの一条レナちゃん。三年前からた、長期任務に出たんだよ」

「この女エクソシストで見たことねえぞ」

「…んー?……まあ、あれ、かな…。たまたま、というか」





コムイさんの歯切れの悪い物言い、態度が少したどたどしく感じたのは気のせいだろうか。それに長期任務の前に何か言いかけた気が…。それよりやはり僕より先輩エクソシストだったんだ。神田はやはり気に食わないらしく眉間の皺がいつも以上に深く刻まれている。そんな様子を見ていたレナさんはにんまりとラビたちに向かって笑いかけた。




「一条レナでーす!君らもエクソシスト?」

「オレラビね。ブックマン一族なんさ」

「ブックオフ一族?」

「ブックマンだよブックマン」

「ありゃ!こりゃ失敬!」



反省の色が見えない。
ラビはひくりといつもの笑顔を引きつらせながら強制的に握手をさせられている。ブンブンと上下に動くラビの腕。もの凄くすごく痛そうだ顔歪んでますからね。

へらへらした笑みを浮かべるレナさんにラビは少しだけたじろいで、強制的に握手していた手をパッと離し彼女から目線を逸らした。レナさんはそんなラビを不思議に思って見上げるとラビは何でもなかったように「ちょっと痛かったんさー」なんて冗談ぽく笑った。

あ、なんかラビ珍しい反応。もしかしたらラビは彼女が苦手?ふと疑問に思ったが、コムイさんやジョニー達が楽しそうに見ているので違うかもしれない。

すると彼女はラビの隣に立っていた神田を凝視し始めた。神田はそんな視線を無視して小さく舌打ちをし踵を返す。きっと自室に戻るんだろう。だが彼女はそんなことはお構いなく凝視し続ける。





「やあ!そこの素敵前髪!」

「ブッ!素敵前髪…っ!」

「ラ、ラビ噴きすぎよ…」




何を言い出すのか、彼女は確かに神田に向かって素敵前髪と吠えた。わざとか、それとも天然か。なんだか悪意があるように思うので前者だろうな。これは見事な爆笑ネタだ。それにしてもリナリーも少し笑ってますけどね。
一方コムイ以外の科学班のみんなは苦笑いだったが内心背筋が凍る思いでいた。下手に笑って神田が抜刀したら大変だし面倒だからだろう。

アレンもにこやかに笑っているが内心神田を嘲笑っていた。ナイスネーミングだと思いますよ素敵前髪って(笑)




「フン!おいテメェ」

「糞?トイレはあっちだよ?
良かったらどうぞ行ってらっしゃいませ」

「そっちじゃねえ!」




なんとも無邪気マイペースな人なんだろう。ここまでマイペースな人も探しても中々いない。神田相手に強い人だ。神田本人には言えないけど調子狂わされてる神田が可笑しすぎて、お腹痛いんです、け、ど…!ざまあ神田。




「ねえ!名前はなんて言うのー?」

「…」

「名前は!なーんでーすかー!?」

「…」

「あっ名無しのごんべえかあ!変わってる〜!」

「話しかけるなドピンク頭」



殺気立つ神田は彼女を睨む。神田自身から近づくなうぜえ、オーラが出ているのがとてもよく解る。女性にその態度は失礼だ、割って入ろうとしたが彼女はそれに怯えることなくまたもへらりとした顔で神田を見た。




「ドピンク頭って失礼な!ピンクブロンドって言ってよ。それにそんなカッカしなくても。カルシウム足りてない証拠だよ!」

「初対面のお前にカルシウムがどうのこうの言われる筋合いは無い」

「…えっ、…あっ…ごめん。そう、だよね、確かに初対面なのに馴れ馴れしかったよね。謝るよ素敵前髪くん」




──ブチィ!

神田から血管がキレる音がした。脳内出血平気だろうか。怒らせた張本人彼女は楽しそうに笑ってる。そして再び「ねえねえ名前なにー?ねえねえねえねえねえねえねえねえ何て言うの?ねえねえねえ」なんてしつこいほど神田に訊いているではないか。レナさんを無視してまた歩を進める神田を気にも止めずに質問をする。なんか色々とすごいやこの人。

僕はそんな彼女を見かねて科学班の人たちをかき分けて前へ出た。