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「あー…終、了っ。じじい終わったさー」

「次はこの三冊じゃ。今日の夜までに頼んだぞ」

「オッケーオッケー」







自室にてブックマンとブックマンジュニアであるラビは自室にてたくさんの分厚い本や新聞を広げては閉じてを繰り返していた。大量の新聞が無造作に拡散しているこの部屋はまるで司令室のようである。

任務帰りであったラビだが今日中に記録しないといけない裏歴史があったため、欠伸をかみ殺しながら数十冊の本の知識を詰め込んでいた。







「つーか任務帰りなんだからもう少し加減してくんね?」

「今回は簡単な任務だと聞いたが」

「任務に簡単も難しいもないさあ」







しおりを本に挟んで本日何度目かの伸びをして身体をリラックスさせる。あの後、レナたちと任務を終えてから汽車内できゃいきゃい騒ぐ彼女に睡眠を妨げられていた苛立つユウを宥めていた。なんで汽車如きにそんなに楽しめるのか不思議でしょうがない。全く遠足気分の子供かよ。行きでも十分はしゃいでいたはずなのに元気なやつだよ本当。







「ああ、一条レナと任務だったのか」

「………俺言ってないぜ?」

「先ほどアレンウォーカーに会って話を少しな」







あー、なるほどね。どうせじじいのことなんだからあいつのイノセンスのことも知ってんだろうなあ。情報はえーし。







「二つ所持してるイノセンスのうちひとつが発動しないというではないか彼女は」

「前々から思ってたんだけどそういうことって誰から聞いてんの?」

「そんなこと今はどうでもよいわバカタレ!」

「いでっ!殴んなよ!本人曰く、全く発動しなくてただ寄生してるらしいさ」








ラビは殴られた右頬を押さえながらムスッとした表情で言った。

イノセンスに適合しなかったハズレ者からしたら、二つのイノセンスを所持しているレナを羨むだろう。まあ、ひとつは全く発動できないわけなんだけど。







「なら注意しておけ。いつか発動するかもしれん」

「はあ?俺が?じじいが見ろよ」






閉じていた本を再び開いてきれいに羅列する文字を左目で追い始める。

ぶっちゃけたところ、俺はなんとなくレナに対して苦手意識をほんの僅かだが抱いている、気がするんだよなあ。気持ちが曖昧なのは自分自身も、よく解っていないからってわけで。

具体的にどんなところが苦手なのかと訊かれると全く答えられないのだけど。なんとなく、ああいう人間は、どうもあまり深く関わってはいけない気がする。

(………、別にユウみたいに嫌いなんては思わねえ、けど)

けど、少なからずユウも俺と似たような苦手意識を持っているのかもしれない。…あくまで憶測にしかすぎないのだけど。

浮かない顔をするラビにブックマンはひとつため息をついた。






「お前は次期後継者なんだぞ。記録できるものはしっかりその隻眼に刻め」






鋭い視線をブックマンから送られるとラビは観念したように「分かった分かった」と頭を掻いた。






「つーかじじいだとレナのペースにはついていけねえもんなあ。年だから」






カカッとラビが笑うとブックマンの蹴りが勢いよく飛んできた。だからいてえよ!!さっきと同じとこ蹴るなよ!じんじんと痛む頬を撫でると冷たい指先が気持ちよく感じた。

じじいの小言に耳を塞ぎながら重い腰を上げて、本を脇に抱えて自室を出る。軽く腫れた右頬の手当てをしに医務室に向かう途中、何故か仲良く手を繋いでいたリナリーとレナに会った。噂をすればなんとやら、ってやつか。






「ラビ、頬大丈夫?真っ赤よ?」

「痴漢でもしてぶん殴られたんだよ。痴漢するほど自分の性欲を抑えられなかったの?言っておくけど痴漢は犯罪だよラビの馬鹿!底辺!」

「ちげえよ馬鹿」






こいつをこれからブックマン後継者としてしっかり見ていかなきゃいけないと思ったら、ラビは少しだけ頭が痛くなった。



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