思わずタルトを食べていた手を止めた。何故シンクロ率?






「そんなの入団当初に計ったじゃん。何でまた」

「君だけ特別。修行に行ったんだ、それなりに上がってるかもしれない」

「なるほど」








コムイの言葉に頷いて再度手を動かしタルトを口に運ぶ。そうだよね三年も修行してればシンクロ率はきっと上がっているはずだ。内容もそれなりにハードだったし、上がっている自身はそれなりにある。

しかしあれの難点は躯を探られる不快感と気持ち悪さだ。








「やらなきゃ駄目、だよねえ?」

「勿論、その為にレナちゃんを探してたんだから」

「実のとこ、ちょっとの間だけど仕事サボれるぜやったぜ。とか思ってたりする?」

「酷いなあ。エクソシストのシンクロ率を調べるのも立派な僕の仕事だよ!」



胡散臭い笑みを浮かべるコムイに嘘くせえ。と思いながらも残りのタルトを平らげた。食事を終えコムイと一緒にヘブラスカの間に向かった。






△▼







『久しぶりだな…レナ』

「うんっ三年振り!」

『元気そうで、良かった』







自分より遥かに背の高いヘブラスカを見上げて彼女は元気に挨拶をする。ヘブラスカこそ元気そうで何よりだ。ヘブラスカもコムイとリナリー同様、三年間レナが修行に行っていたことを知る極少数の人間である。







「じゃあお願いしまーす」

『ああ…計るぞ……』






レナが短く返事をしたと同時にヘブラスカの体から触手のような物体がレナの躯に巻き付いた。

ホルダーに入っていた風花も共鳴するかのように強い光を放った。躯とイノセンスがお互いシンクロしているのだ。するりと躯中を探るように触手はレナの躯に這う。

この感じ、これがすごく嫌なんだ。なんともいえない気分になる。気持ち悪い、なあ。

風花とシンクロすることに集中してどうにか気持ちを紛らわせる。視線を落とすとコムイが呑気に手を振っているではないか。

振り返せる状況じゃねぇよばかち。







『3%、28%、43…69…84…94%。

レナ、お前のシンクロ率は、……94%で、安定している」

「は、はあ…。」






驚きと動揺を隠せずにいると身体を這っていた触手から解放され地へと降ろされる。90%を越すなんて思ってもなかったし、自分でもビックリだ。入団当時のあたしのシンクロ率は70%ちょいだったのに。まさかこんなにも上がっていたのか、自分で言うのもあれだけど94%なんて意外と、ね、すごいのかもしれない。

ぽかんと口を開けて驚く中、隣に立っていたコムイが嬉しそうな声を上げる。その声で現実に引き戻される。







「すごいすごい。まさかこんなにも上がっていたなんて思っても無かったよ。90%越え、おめでとう」

「ん」

「浮かない顔してるね、嬉しくないのかい?」

「いやあ…そうじゃなくて…なんか、実感沸かなくて」





94%なんてほぼ元帥に近い状態だ。元帥と対等と呼ぶにはまだ遠いが、元帥並みと言っていいだろう。こんな風に私が成長したのは少なからず自分の修行を手伝ってくれた元帥のお陰である。嬉しいんだけどあの人の特訓のお陰だと思うと不思議と複雑な気持ちになる。

なんかなあ…嫌じゃないけど鼻につく、というか、なんというか。

そんなレナの複雑そうな気持ちに気づいたのか、コムイは自分の身長より頭一つ分ほど小さい彼女の頭を撫でてやる。頑張ったね、言葉にはしないがそう言われた気がした。コムイからの労りが嬉しかったのか自然とレナの目尻が下がっていた。








「レナ、入団当初のシンクロ率を…覚えているか?」

「確か73%だったような」

「そうだ…。お前は、普通の装備型と違って非常にシンクロ率を上げるのが困難だ。よく…ここまで上げられたもの、だな……」








レナは元々シンクロ率が上がりにくいエクソシストだった。入団当時のシンクロ率も並。とくに良いと云えるものではなかった。だがこの三年間で20%以上も上げたのだ、これにはヘブラスカとコムイは驚きを隠せないでいた。

とにかく死に物狂いで特訓したからきっとその成果が出たんだろう。この三年間、特訓を何回かサボったりしたこともあった。それがバレては元帥に殺されそうになるが厭きもせずまたサボる。そして殺されそうになる、サボる。の繰り返し。サボった理由は色々と諸事情があるのだが数的には両手で収まる程度だ。元帥は普段は普通の人間だが、特訓になると鬼のようなスパルタ振りであった。大変だったけどそれが成長に繋がったんだろうなあ。

先ほどヘブラスカが言ったレナのイノセンスのシンクロ率の上げにくさ、それには一つ理由があった。








「やはり心臓のイノセンスはシンクロ出来ないかい?」







だだっ広いヘブラスカの間に落ち着いたコムイの声が響いた。







「…あぁ、心臓に寄生してるイノセンスは、何の反応を示していない」

「そうか…」

「だが前のように風花とシンクロをすると、その力を制御してしまう…」







いつも通りコムイは笑みを絶やすことは無いが、僅かに表情が曇ってるように思えた。

私のイノセンスは何故か分からないけど二つ所持している。一つは扇子の形をした風花。もうひとつは心臓に寄生してるイノセンス。二つ所持していると云っても心臓に寄生しているイノセンスは今まで一度も反応したことがない。だから結果として風花しか使っていない為イノセンスは一つと云っていいだろう。

入団当初、ヘブラスカから教えて貰ったんだけど心臓のイノセンスは何らかの関係で風花の力をコントロールしているらしい。全く反応は示さない心臓のイノセンスは力を抑えることだけは一丁前にするようだ。全く制御しなきゃもっと上がっていたかもしれないのに。

憶測だけど、制御の力を持つこのイノセンス無しじゃ風花は発動出来ないんじゃないかと思ったりもする。

どこか表情の晴れないコムイを見ると、きっと心臓のイノセンスに何らかの反応を示して欲しいんだろう。それが武器化すれば尚良いと考えていると思う。反応を示してくれない自身のイノセンス、ほんの少し申し訳なさを感じた。







「あ、違うよレナちゃん。誤解しないでくれ、確かに武器化まで進んでくれればそれに越したことはない。だけど反応しないならそれで良いんだ、今の君は元帥並みの力を持っているしね。ただこうもずっと反応しないのは異様だと思ってね」






視線に気付いたコムイはレナをフォローするように言った。

確かに異様と云えば異様かもしれない。でも考えたって頭なんかで理解出来なきゃどうしようもない。何か反応するまで放置した方が賢明だ。