この世界に来てからどの位の日が経たのだろう。私が元より仕えていた政宗様は孫策さん達曰く、遠呂智の所にいると聞いた。

何考えてるんですかあの大馬鹿山犬め。何故遠呂智なんかと一緒に行動してるんですか阿呆。








「お前は仕えていた主君の悪口を簡単に言えるのか」

「義経さん、分かって無いですね。政宗様のいない時だからこそ悪口が言えるんですよ」

「そういう問題なのか」

「そういう問題です」







義経さんは納得出来ないようにむーんとした顔をした。

私はこの世界に来てから古代の三国志、呉の方達の所でお世話になっている。

そこで何となく仲良くなった人が源義経さん。書物通り、綺麗な人だ。








「きっと政宗様の事だから隙あらば遠呂智の天下を横取りしよう、なんて考えていると思ってますよ」

「横取りか…」

「昔からああいう人ですから」







元の世界にいた頃も秀吉様に服従していた時があった。だけど心中は天下を狙っていたはず。

あの人のそういう考えは嫌いじゃないけど、そんな事をしなくても天下なんか取れる気がするんですけどね。

あくまで私の考えですが。








「それ故政宗様は兼続さんに利に群がる不義の山犬め。って言われてましたよ」

「あぁ…今も言っているな」

「そうでしたね」








ずず、と熱いお茶をすする。美味しい美味しい。

湯呑みを静かに置けば義経さんが何だか物申したげな顔をしている。







「何か?」

「いや、一つ聞きたいことがあるのだ」

「聞きたい事?」







首を傾げれば、義経さんは言いにくそうに頭をかきながら目を泳がせる。

潔くさっさと暴露すれば楽なのに。






「そ、その」

「はい」

「えー…と」

「はい」

「つ、つまりだな」








つまり、の先が気になるので早く言って欲しい。焦らすのが好きな人なんだなきっと。









「お前にとって政宗って人はどんな方、なの…か」

「は?」







散々言葉濁して質問した内容はそんな事ですか。拍子抜けですよ。

でも義経さんにとっては大変勇気を出した質問らしく、少しばかり疲れが見える。









「どうなんだ」

「………そうですね、政宗様は面倒臭いこの上ない方です」

「め、面倒臭い?」

「はい」

「そうか…」







心なしか義経さんの顔が嬉しそうに見える。何笑ってるんですかこの人は。







「自分勝手ですし我が儘ですし言うことは聞かないし血の気多いし」

「酷い言われようだな」

「本当の事ですから」





あの人のせいで散々振り回されたし勝手な行動をして心配もした。無茶な事ばかりするから家臣達も常にヒヤヒヤしてましたねー。

思い返すと走馬灯の如く駆け巡る。









「でも、あの人はただ不器用なだけなんですよね」







湯呑みを膝に置き床を見つめる。ぽつりと話す言葉に義経さんは耳を傾ける。

そう、不器用なんだ。母親の愛情を受けずに育ったあの人は、形にする事が苦手なだけ。










「本当はとっても優しい人、なんですよ」








私は知ってる。

私の言った我が儘を呆れながらも聴き入れてくれる事を。私が怪我をしたら一晩中付き添ってくれた事を。全て知っている。

そう答えたら義経さんは目を見開き戸惑いを見せた。








「……お前にとって一番大切な人なんだな」

「ただ仕える者として政宗様は大切なだけです」

「そうか…?」



俺にはそう聞こえなかったぞ。

目を伏せて答える義経さん。先程の表情とは異なり苦渋の表情を浮かべる。





「残念だが、一生届きそうにも無いな…」

「あのう?話が分からないんですが」

「分からなくていい」







また義経さんは苦しそうな顔をしては無理に笑顔を作った。













少しだけ胸が痛んだ

(お前への恋心は絶対に届かない)
(お前の心にあの男がいる限り)










FIN



= = = = = = =

あとがき


これ義経夢……?
政宗様夢みたくなってしまった気がする。

元はほのぼの書こうと思っていたのにいつの間にか切夢にorz



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