俺の知ってる限り、女子という者は常に男の二、三歩後ろに下がって男を支えていく事が当たり前の事。戦で傷ついて帰ってくれば暖かく迎えてくれる。

この捩曲がった世界に来るまで、否…あの女子と出会うまではそう思っていたのだ。

その女子は俺の生きていた時代の女子とは異なり、大雑把で面倒臭がり屋でちっとも女子らしく無い。一言でまとめればがさつな女子だ。








「……まさかとは思いますが、そのがさつな女子って私の事なんですか?」

「あぁ、そうだ。なまえの他に誰がいる」

「アンタふざけんじゃねぇですよ腐れ武士風情が」

「…な!く、腐れだと!?」






思わぬ言葉につい声を張り上げてしまった。だがそんな簡単に取り乱してしまっては武名を汚してしまう事になる。なまえの顔を覗いてみれば眉間に深いしわが刻まれていた。
どうやらカンに障った事を言ってしまったみたいだ。








「つ、つまりだな…もう少し女性らしく振る舞わないのかと…」

「私に喧嘩を売ってるんですか?犬畜生め」

「そんなつもりで言ったのでは無い!ただ女子という者はもう少し控えめな者だと思ってだな…」

「女性のみんなが全員、控えな奴だと思ってるならとんだ勘違いですね」







この外道が。

なまえは小声でボソりと呟く。つくづく思うがこの女子は女性らしく無い。

何故俺が外道まで言われなければならんのだ。本当の事を言ったまでだ。

そう告げればなまえは口を閉ざした。





「…………」

「………───」






暫しの沈黙、風がふわりと柔らかく吹きつける。吹きつけた途端、先に口を開いたのはなまえだった。







「ひとつ質問いいですか?」

「なんだ」

「私が控えめな女性になれば義経さんはそれで満足?」

「どういう意味だ」





なまえの言葉が理解出来ずにじろりと見遣る。






「もし私が今以上に控えめになったら、私はもーーーっと男性に好意を持たれてしまうんですよ」

「だから控えめじゃないだろう」





何がもっと男性に好意を持たれるだと。そんな訳があるか、自意識過剰すぎるな。


心の中ではそう思っていたが、なまえに他の男が寄られる姿を想像すると少しだが不愉快な気分になった。







「ねぇ、いいんです?」

「……………べ、別に俺には関係無い」

「へぇー関係無いですかぁ」







何かを企んでいるような笑顔に俺は知らずと後ずさりする。
だが着々と距離を縮めて小綺麗な顔を近づける。







「……な、なんだっ」

「実は知ってるんですよ」

「…何を、」






知っている。

そう言おうとした瞬時になまえの指が俺の唇にやんわりと触れる。






「義経さんは私が好きなんでしょう?」






耳元でそっと呟かれる。

触れていた唇から手を離して不適に笑った。そのひとつひとつの行動が俺を魅了するには十分過ぎるくらいだった。








「ば、馬鹿を言うな!そんなのなまえの勘違いだ!!」

「えー絶対そうですってー」

「きっ…気のせいだ!」








一人の女子にここまで振り回されるなんて……武士として情けない。

赤くなってる顔をこれ以上目の前の女子には見せまいと手で覆う。







「恥ずかしがり屋は困るな」

「違う!恥ずかしがっている訳では無い!」

「あーはいはい、そうですか」







恥ずかしいわけでも照れているわけでもない。ましてなまえをす、好いているわけが無い!

そうだ、このような大雑把で面倒臭がり屋な女子を好くわけが無い!断じてあってはならない事だ!

目の前に居るなまえの肩をがしっと掴み息を大きく吸った。







「…えーと?なんですか?」

「いいか!勘違いをするな!俺はお前を好きじゃないからな!惚れてるわけじゃないからな!」

「へぇ。」

「まして笑った顔は実は可愛いなんて思った事は一度も無いからな!」

「可愛いって思ってたんですか」

「はっ!ち、違うぞ!!今のは間違いで…!」

「いやいや可愛いって言ったじゃないですか」

「間違いだ!」

「そんな間違いなんて嘘を。私が可愛いのは本当の事」

「だから間違いだ!」






何て事を言ってしまったんだ。否定するはずがつい…か、可愛いなど口走ってしまった。

だから違うんだ!









素直になればいいのに


(もどかしいですね。さっさと言って欲しいのに)
(馬鹿を言うな!)











FIN


= = = = = = = =


義経初夢。
難しすぎるよこの人。