独眼竜政宗。 隻眼、果断の故をもって人はわしをそう呼ぶ。ふん、竜か…悪くない響きじゃ。 青々とした空を見上げて物思いにふける。 わしはいずれ天下を取る男よ、独眼竜なぞそんな異名はわしの為にある言葉よ! 「何自分に酔ってんですか貴方」 「…どわっ!!い、いきなり現れるでは無いわ!」 「くのいちですから仕方ないですよ」 「心臓に悪いわ!!」 「そのままぽっくり逝っちゃったり……」 「貴様…、死にたいようだな」 安全の為に懐から愛用の銃を取り出す。わしの銃を見たなまえは舌打ちをして嫌々すみませんでしたー、と謝る。嫌々と。 仮にも主君にその態度を取る奴は日の本、何処を探してもコイツしか居ないだろう。 「ふん、貴様は本当忍びらしくないな」 厭味を込めて言ってみる。 「ふふ、政宗様は本当当主らしくないですよね」 厭味を倍にして返された。 「き、貴様!わしを愚弄してるのか!!」 「あ、蝶々発見」 「人の話を聞かぬか!」 こんっっの大馬鹿忍び、人を何だと思っているんじゃ!普通の人間ならば顔と体が即切り離されていた所よ!! 苛々をなんとか抑えに抑えて近くの大木に乱暴に腰を下ろす。 「政宗様はさっきから庭で何をしてるんですか?」 「貴様には関係ない」 「え?お散歩ですか?執務して下さいよこん畜生めが」 「散歩なぞ言っておらん!!」 なまえの相手は戦以上に疲れる。体力を必要以上に使っているのは気のせいではない。 コイツは天然なのかわざとなのか区別がつかん。いやきっと後者に違いない。 「政宗様の事、小十郎さんが探してましたよ」 「そんな事はわしに関係無い」 「関係無くねぇですよ、執務しろよこの馬鹿当主」 「えぇい!!いい加減自分の立場を弁(わきま)えんか!貴様は礼儀という物が無いのか!」 「まぁ…そのくらいありますよそのくらいは」 全くこんなに人と会話をして苛々するのはコイツぐらいじゃ。なまえはわしを怒らせる天才じゃな! 気分を害したわしは今ばかり下ろした腰を上げて、此処から早く離れようとズンズンと宛てもなく足を進めた。 「あれ行っちゃうんですか?」 「貴様と関わると録な事が無いからな」 「え、ちょっと待って下さい」 「何が待てじゃ!散々人を馬鹿にしよって!」 「や、やだ!!待って下さいって!」 な…何、じゃこの慌てぶりは。 今までわしに仕えてからそんな素振りをした事など無いこの女が、わしがなまえから離れては駄目だと言うような言い方をしたのは初めてだ。 「お願いですから、政宗様…行かないで…下さい」 「……………」 いつもの淡々としたなまえの声とは異なり、今にも泣きそうな声で奴は呟いた。 後ろを振り向かずとも分かる、不安な顔をしているに違いない。 「お願い、です…」 ふつふつと優越感が沸いてくる。 あのなまえが、普段は人を馬鹿にしては嘲笑ってるなまえが行かないで欲しいと言っておる。 だが素直に待つのも面白くない。少し困らせてやろうと思ったわしはなまえの言葉を無視してさらに足を進める。 「政…宗、様」 なまえの声が震えている。 困れ、もっと困れ。いつもの罰じゃ。わしの事でもっと困ってみせろ。泣いてみせろ、そしたら振り返って腕を引っ張って抱きしめてやる。 孤を描く口元を手で覆ってさらに進もうとした、 瞬間に…──── ズルッ ドカァア!!!! 「ぐわ!!」 体中に痛みを感じて一瞬何が起こったか分からなかった。 ふ、と体の自由が効かない違和感を覚えた。そしてすぐに自分の現状が分かった。 「あーあ、だから言ったじゃないですか」 「また貴様かぁ!! 何故こんな所に落とし穴を掘るのだ!馬鹿めが!!」 「出来心です!」 「戯れ事を!!チッ、この穴から出るから手を貸さぬか!」 落とし穴に見事ハマった伊達政宗。 目の前に来たなまえはしゃがみ込み呆れた顔をする。 もしこんな姿をギーギー煩い兼続が見てしまったらわしは一生笑い者にされるだろう。 「私はちゃんと言いましたよ、止まれって。それを聞かずにやましい事考えてた政宗様の自業自得では?」 「くっ……」 悔しいが反論は出来ない。 少なからず下心はあった。しかし口にはしていない、何故分かるのだコイツは。 「まぁ夕餉まで頑張って下さいね、もし間に合わなかったら政宗様の分は私が片して置きますから」 「なっ!待たぬか!手を貸せと言っているだろう!!話を聞かぬか!話を! えぇい!減給じゃ馬鹿めー!!!!」 奥州王伊達政宗の災難 (ま、政宗様!何をしているのですか!?) (小十郎………なまえを山に捨ててこい) (は、話が読めませぬ…) . = = = = = = = あとがき 政宗様、結局夕餉には間に合わず。ヒロインは伊達さんの分まで戴いた。 伊達さんのキャラが難しい。ボケとツッコミだったら絶対ツッコミだ。 . ← |