「ねぇ半兵衛、死ぬの?」






晴れ渡る青空が綺麗に見える屋根の上で寝転んでいる半兵衛。その顔を覗き込みながらなまえは半兵衛に質問をする。彼女の表情はどことなく愉しげだ。

その声に反応した半兵衛はゆっくりと瞳を開いてなまえに向けてやる。







「もう昼寝の邪魔しないでよー」

「私の質問答えてよー」

「はいはい死ぬ死ぬ。人間いつか必ずね」






適当に返事をすれば半兵衛は帽子を深く被り再び眠りの体制に入ろうとする。その返答が気にくわなかったのかなまえは口を尖らして空を仰いだ。

暫くぼうっと空を眺めながら口を開く。






「じゃあ質問を変える。半兵衛はいつ死ぬの?」

「変えるって、ほとんど変わってないじゃん」

「まぁまぁ」







同じような質問をするなまえに呆れた半兵衛は帽子を上げて身体を起こした。寝ることは諦めたようだ。半兵衛は一つ欠伸をしてなまえを真似して空を仰ぐ。







「で?どうなの?」






なまえは視線を半兵衛に移すと彼は眉間に皺を寄せた。





「さっきからなまえは俺に早く死んでもらいたいわけ?」

「まさか」

「そう感じとれる言い方なんだけど?」






少し怒った表情を見せる半兵衛になまえは俯いて小さく微笑む。その横顔はほんの僅か憂いを帯びている。

早く死ね、なんて私が思うはずないのに。







「なに笑ったり落ち込んだりしてるの」

「いたた、ほっぺ痛いよはんふぇ」







容赦なく思い切り私の頬をつねる半兵衛。外見とは裏腹に意外と力はある。しかも女子相手に加減しない、というか私相手だから加減しなかったのかも。

やっと離してもらえば今度は私の顔を見るなり"頬真っ赤、ブッサイク"なんて言って笑い出す。真っ赤になったのは貴方の原因よ、それに不細工は聞き捨てならんわ。

散々爆笑するだけして半兵衛は「あー久々にこんな笑った」と目尻の涙を拭いながらぼやいた。私はそんな半兵衛を見据える。







「あのね半兵衛」

「んー?」

「半兵衛が死んだら官兵衛殿、悲しむよ」

「今日は色々と唐突だなぁ」







眉を下げて困ったように半兵衛は笑う。唐突なんかじゃない。ずっと前から言いたかったもの。でも今まで言う機会がなかったから、今日まとめて言っているだけよ私は。







「秀吉様もおねね様も絶対悲しむよ」

「うん」

「清正や三成、正則だって」

「うん」







徐々に下を俯いて話す私に半兵衛はただ頷くだけ。何故か真っ直ぐと半兵衛の顔は見れない。違う見れないんだ、わたし今、泣きそうだから。







「半兵衛が死んだら私は誰よりも悲しむ、と思う」






多分…ね。
語尾に付け足したのはせめてもの強がりだった。多分じゃない、絶対悲しむ。童のようにわんわん泣いてしまうだろう。自分自身が枯れるまで泣き叫ぶんだろう。

半兵衛はそんななまえの姿を見て短いため息を漏らした。







「あのさー勝手に話進んでるけど俺まだ死なないから」

「長くないくせに」

「でもまだ死ねない」







半兵衛はにこりと笑って俯いた私の顔を両手で挟んで無理やり上を向かせる。








「大丈夫、秀吉様が天下統一すればゆっくり養生できるしね」

「…半兵衛」

「それまで死なないように頑張るよ」






秀吉様の望む笑って暮らせる世が実現すれば半兵衛はやっと休めるんだ。天下統一までまだ短いようで長い。早くそれが実現すればいいのに。そうなれば半兵衛はちゃんと病と向き合える。

半兵衛は私の頭を子供相手にするかのように撫で回す。それがとても居心地良く感じて知らず知らず顔は綻んでいた。







「大体なまえの泣き顔なんて不細工だから見たくないね」

「…言っておくけど私の泣き顔は濃姫様より魅力的だからね」

「嘘ばっか〜」






半兵衛はお腹を抱えながらケラケラと笑った。こん畜生、笑いすぎよ。睨みつけてやると半兵衛は「おー怖い怖い」なんて言って寝転んだ。全く、竹中半兵衛ってなんでこう捉えどころのない人間なのかしら。

そんな半兵衛の姿を見たらなんだか怒る気も失せて私も彼の隣に寝転ぶ。







「なまえも一緒に寝るの?」

「たまにはいいかなって」

「あんまり寝ると官兵衛殿に怒られるから気をつけなよ」

「それは半兵衛でしょ」







二人は顔を見合わせて笑い出す。些細なことだけどこういうの幸せって言うんだろう。

今はただ貴方の隣で、




(ねぇなまえ、俺のために泣かなくていいから俺のために笑ってよ。…なんて言えたら心残り無いんだけどなー)




fin.