長らく政宗様の侍女として仕えているが、伊達政宗という人間は酷く癖のある人間だ。血気盛んな性格、打算的な考えに見事な伊達男ぶり。これに慣れるのはそう時間はかからなかった。

輝宗様が亡き後は政宗様が伊達家当主になり、ここ最近当主らしい風格が板についてきた。そのせいなのか、私より四つほど年下なのに近頃やけに思考や容姿が大人びてるように感じ始めた。考えてみればここ数年は「子供扱いするな、馬鹿め」とよく言われる。







「何じゃ」

「…えっ?」

「先から人の顔をじろじろと見ていたではないか」

「いえ…何でもございませんよ」







にこりと笑みを浮かべると政宗様は小さく鼻を鳴らした。今日は機嫌があまり良ろしくないようだ。

理由は大体見当がつく。政宗様の部屋の蝋燭が小さくなったとお聞きして取り替えるべく、政宗様の部屋を訪れに来たはいいのだが普段より遅くなってしまったのだ。今朝私は階段から足を踏み外してしまい、右足を挫いてしまった。歩くにも多少困難な為、思ったより時間がかかってしまったのだ。

残り僅かになってしまった蝋燭を急いで替えなければいけないはずなのに、考え事をしていた所為か手は自然と止まってしまった。そして視線は政宗様へと向かれていたらしい。

政宗様の端整な横顔を小さくなった蝋燭の火がゆらりと点す。伏し目がちにされたその瞳を良く見ると睫毛が長いこと気付いた。







「まだか」

「暫しお待ち下され」

「今日は作業が一々遅いではないかなまえ」

「そうにございましょうか?」





今宵は冷えますゆえ手先の動きも鈍りまする。そう適当に返したことが気に入らなかったのか、元々良くない機嫌がさらに増した。お顔を見ずとも雰囲気で分かる。

蝋燭を替える時間がかかってしまったが、無事新しいものと取り替えることができた。その場から立ち去ろうと政宗様に一礼をして腰を上げようとした。が、







「待て」






政宗様に手首を掴まれてしまいそれは許されなかった。手首から触れる体温が私より随分低いので、お体が冷えていないかと心配になる。

手首を掴まれて動けないでいると、政宗様は「座るがいい」と仰った。素直に首を縦に振ると手首から低い体温が離された。





「何か御用件でも?」

「足を見せろ」

「はい?」

「右足を見せろと言うておる。痛むのだろう」

「(…知っていたのですか)大した事はございませぬ」

「貴様、わしの言うことが聞けぬのか」






睨まれるように重なった視線にたじろぐ。この方は幼き頃から相も変わらず力強い瞳だ。この瞳に見られては逆らうことが出来ない。怖ず怖ずと右足を政宗様に差し出した。足首は処置を施されている為包帯が器用に巻かれている。

顎に手を当て、腫れた右足首を見下ろした。







「結構腫れておるな」

「しかし思ったより痛みはございません」

「ふん、強がるな馬鹿め」






ぎっ、
政宗様は私の足首に少し力を込めて掴んだ。





「い…っ!政宗様っ!」

「ははっ、そう怒るな。強がるなまえが悪いのじゃ」






今度は私が睨んでみれば、笑って流されてしまった。痛みはないとは言ったものの実は相当痛む。立ち上がるのも困難なくらいだ。

足を引っ込めようとした瞬時に先とは違う、壊れ物を扱うかのように患部に触れる。すると足袋を脱がし、巻かれている包帯を剥ぎ取り始めた。





「?…何を」






問い掛けるが私の呼びかけなんぞ耳を傾けない。顕わになった右足首をゆっくり持ち上げられ、政宗様はそれに顔を近づけ爪先に口づける。

突然の行動にただただ驚きを隠せない。





「政、宗様…っ」

「…、」




ちゅ、
爪先から徐々に足首へと優しく接吻され、患部に辿り着くと赤い舌先が踝(くるぶし)を丁寧に舐めあげる。

ぬめりとした感覚が全身の神経を侵す。時より見上げられる隻眼が色香を漂わせる。何が楽しいのか知らぬが口元を孤にする政宗様。







「っ…お、やめ下さい…
政宗様、まさむね様…っ梵天丸様!!」





何故、幼名で呼んでしまったのかは解らぬが知らぬ間に呼んでいた自分がいた。

叫び声に近い声を張り上げると政宗様の動きも止まる。…よかった。安堵して胸を撫で下ろのもつかの間。










「まだわしを童扱いする気か」






ぴりり、とした雰囲気が漂う。機嫌が悪いなんてものじゃない、これは完璧に怒っている。絶対に。

普段ならこういうときは直ぐに引き下がるのだが、今回は足首も痛む為引き下がれそうにもない。この場合は素直に謝るのが一番いい。






「誤解でございます…今のはとっさに」

「言い訳か?聞きとうないわ」

「政宗様、」






これは悪い展開になりそうだ。手に冷や汗をかき、足首の痛さも何だか徐々に増してきた感覚に陥る。

下を向いていれば無理矢理上を向かせられる。






「っ!な、」

「下を向くな、わしを見ろ」







政宗様は蝋燭の取っ手を手に取り私の顔を点す。火が熱い、





「二度と童と思えぬ体にしてやるわ」



政宗様が蝋燭の火に向かって息を吹きかけると一瞬にして部屋中は真っ暗。額から汗が一筋伝う。これはまずい、絶対に逃げれない。頭の警報が鳴るのは遅すぎた。




FIN


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久々の政宗夢
盛りついた政宗様しか書けない…な、何故だ……。

史実では輝宗が生きてるときにはもう政宗は伊達の当主ですが、今回は少し捏造しました


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