天下分け目の戦い、関ヶ原での戦いに石田三成は徳川家康に敗れた。故に敗北した三成はあの日から今日まで牢屋で生活していた。そして数刻後には彼は斬首されてしまう。





「(呆気ないものだったな)」






長いようで案外短い人生だった。こんな形で終わらせることになるとはな。自嘲を零せば己の手足の枷達が牢屋中に金属音を響かせる。

かつ、

ふと聞こえる足音。外にいる警護の奴らが入ってくるのだろう、そんな事をぼんやりと考えていた。






「三成」

「お前…なまえ、か」







突然の人物に三成は目を見開いた。

なまえは秀吉様の子飼いであり、関ヶ原でも西軍の武将として戦っていた。俺の側近で動いていた彼女は敗北した後、警護の人間から幽閉されたと聞いていた。あれは違かったのか?大体お前の様な人間がこんな所入れないはずが無い、何故がいるんだ。警護の人間は?侵入でもしてきたのか?











「家康が許可をくれたの」

「…あの狸が?」

「最期だから特別にって」






家康の奴、何を考えている。今更なまえと面会させて何になる。

険しい顔立ちの三成を他所になまえはその場に腰を下ろして牢屋越しに三成と対面する形となった。






「幽閉されたと聞いていたはずだが」

「されてたよ。今日は特別。この面会が終わったらまた元通り幽閉」







淡々と吐き出された言葉に三成はそうかと返す。

長いこと幽閉されていたのだろう。なまえの肌は白さを越えて青白く感じられた。まるで死人のようだと思った。だが彼女から見た俺も似たようなものだろうな。






「ねぇ三成、柿食べない?」

「何故お前はそんなもの持っている」

「お腹減っちゃってねー」






質問と答えが噛み合っていない。そんななまえに三成はため息を漏らす。

三成のことはお構いなしに風呂敷の結びを解き、よく熟れた柿を三成に手渡す。







「いらんな」

「お腹減ってるでしょ」

「いらんと言っている。柿は身体に障る」







そう三成が答えればなまえは吃驚したように目を見開く。

驚くのも無理はない。三成は残り数刻で死んでしまう身だ。例え柿が体に悪いとしてもどうせ死ぬのだから関係ない。

三成らしいや。なまえは心中にそう呟く。小さく笑みを零して差し出した柿をそのまま自分の口に運んだ。

三成はその姿を切れ長の目で捕らえていた。視線に気付いたなまえは三成と目が合う。







「何?」

「お前を娶(めと)れば良かったと考えていた」

「は、い?」

「せめて抱いておけば良かったと後悔している」

「え…え、え?」






突如の三成の言葉になまえは目を丸くし、頬を紅く染めた。彼女の姿を見るなり三成は口角を上げた。







「こんな時に何を言ってるの」

「こんな時だからこそ言っているのだよ」

「…、だからっ」

「俺が戯れ事でも言ってるというのか」

「違う…けど」






違うけど何だ。
鋭い目つきでなまえを見る三成、彼女はその目線に言葉を詰まらせて顔を俯かせる。







「…三成が生きるなら、私は貴方の物になる」

「……」

「だから、死なないでよ」







無理な話だと承知でなまえは三成に生きろと言う。彼女の声はどこと無く震えている。

ジャラッ、

三成はなまえに手を伸ばそうと動かそうとすると重い金属音が耳につく。枷が邪魔をして触れる事は出来ない。







「ねぇ、三成」

「…何だ」


「貴方がいなくなったら私はどうしたらいいの」






今にも泣き出しそうな彼女に三成は力無く渇いた笑みを浮かべた。









呼吸くらいはできるだろう

(俺がいなくともただ生きろ、それがお前に出来ることだ)






END

title by 鈴が鳴る