戦国最後の戦、大坂の陣にて真田に勝った。普通なら喜べるはずだが何故か気持ちは晴れぬまま動かなくなった真田幸村の屍を見下ろしていた。 大粒の雨がやけに冷たく感じた。 「何故だ…」 心に蟠りが出来ているかのようだ。不愉快、煩わしさ、悔しさを感じた。勝ったはずなのに悔しさが沸き出るのはおかしいはずだ。分からぬ、何故じゃ。舌打ちをして唇を噛み締める。 ふと雨音の中から土を踏む音が聞こえた。 「政宗様、お戻りになりましょう」 「…なまえか」 「風邪をひかれます」 ザァザァと一向に止む気配がない雨。打たれる雨にひどく心地好さを感じた。 なまえの心配の声を流して視線を幸村へと戻す。 「何かが違うのじゃ」 「…政宗様?」 「この戦、勝って嬉しいはずなのだが…何故か喜べぬ」 拳を強く握り下唇を噛んだ。 何故だ何故なのだ、何がいけないのじゃ。胸の中で不愉快に渦巻く様々な感情に苛立ちを覚える。 止む気配のない雨。 「真田の勇姿をご覧になって思い知らされたからではないでしょうか?」 「何…?」 「あの時の真田の姿、敵ながら誠に見事だと思いました」 「…………」 「政宗様、お気づきでしょう?」 心の中に蟠る感情。 なまえの言う通り、あ奴の姿は確かに武士であった。大勢の敵に怯むことなく槍一本で突き進んでいた。奴の生き方は常に真っ直ぐで純粋だ。曲がった生き方をしない。 比べてわしの生き方は幸村と真逆だ。天下を狙おうにも機会が出来ず、天下人に下げたくもない頭を下げ野望を秘めたまま従って来た。それが悪いことだと考えたことは一度もない、要らぬ敵を作るより上手いやり方だと思う。 だがそれ故、 「…犬などと呼ばれるのか」 このように考えるのは幸村の生き様を羨ましいと思ったからなのか。否、違う。わしはこのままで良いのか、これで満足なのか…。 このままで終わらせて良いのか。 「政宗様、」 ふと下げていた顔を上げるとなまえは足を地面に付けて遜る。 「あなたは竜にございます。犬でも何でもございません」 「なまえ、」 「竜が天に昇るには今が好機。政宗様、ご決断を」 雨音の中でも凛として透き通る声。なまえの言葉に背中を押された気持ちになった。 政宗は地面を蹴り踵を返す。 「行くぞ」 「、政宗様」 「敵は家康じゃ」 先に感じた胸の蟠りは今は何も感じなくなった。気持ちに決心がついたからだろう。 後悔はせぬ、これで良い。これが正しいしのじゃ。 竜は飛翔する END ← |