初めてあの方をお目にかかったとき、力強い眼光に引き寄せられそうになった。次にお目にかかったときは私の前で初めて笑って下さった。笑う顔があまりに青年らしくて私の心を一瞬にして捕らえた。この間お目にかかったときは天下への野望が大志へとお変わりになったように見えた。私はそれを頷きながら嬉しそうに話を聞いていた記憶がある。

会話を交わしていくうちに私は気づいた。私はあの方に惹かれているのだと。








「はぁ!?アンタ今なんて!?」

「これで四回目だよ甲斐ちゃん」

「だだだだって信じられない…!」

「私が奥州の伊達政宗様に惚れたことが?」


「なっなんでぇー!!!?」








キィインと甲斐ちゃんの大きな声が大阪城に響き渡る。氏康様が生きていたら「うるせぇド阿呆が!」なんて怒られてしまうくらい大きな声だ。

思わず耳を塞いだ。







「姫にあるまじきでかい声、これじゃモテないよねぇ」

「うるさい!なんであんたいんのよ!」

「ちょっとした用事でねぇ」

「くのいちちゃんがいるって事は幸村様もいるの?」

「え!?幸村様!?」

「残念ながら今日はいませーん」




何処から現れたのか真田の忍びのくのいちちゃんが私達の後ろに立っていた。

彼女はおちゃらけた感じで軽く流す。一見、彼女は不真面目そうに見えて意外と真面目で、純粋なところもある。

幸村様の事が好きみたいだけど鈍感な幸村様は、くのいちちゃんの恋心なんて気づいていない。甲斐ちゃん曰く、頑張ってるわりには報われない…らしい。







「さっき何をそんなに騒いでたの?怪力姫がフラれたとか?」

「違うわよ!なまえがあの伊達政宗を好きって言うからびっくりしたの!」

「あー…なるほどねぇ」

「何よあんた、驚かないの?」

「何となくそんな感じしてたからなぁ」







…え、

もしかして態度に出ていたのかな。自分では全く気づかなかったけど…、なんか急に恥ずかしくなってきた…。







「だからなまえ、この前の奥州の一揆のときもはりきってたのね。納得いくわー」

「違うよ!それに政宗様が黒幕だって初めは知らなかったじゃない!」

「はいはいそうね。しかもアイツが大阪城に来る度に嬉しそうににやにやしてたのも、ふーんそういうことか」

「にっ、にやにやなんかしてないよぉ…」







楽しそうに甲斐はなまえをからかう。隣でくのいちが「趣味悪〜…」なんて甲斐を茶化せば勿論彼女は反論する。

このふたりがいるといつも賑やかだな。私は小さく微笑む。

それにしてもにやにやなんて、そんな阿呆面してたのかな。自分で言うのもあれだけどなんて馬鹿だろう私ってば。






「あ、忘れてたけど今日政宗さんが大阪城に来るらしいよ〜」

「…えっ!!?」

「ふーん、好機じゃない。なまえ会ってくれば?」






甲斐はなまえの背中を軽く押して政宗の元へ行くように促す。

くのいちちゃんも「頑張ってねーん、にゃはん♪」なんて他人事のように甲斐ちゃんと同じように背中をポンと押した。





「(ああ行かざるを選ないのね…)」







二人が後押ししてくれるから行かなきゃいけない。後押しというよりこの二人はなんだか楽しんでるように見えるけど。

戸惑いながらも足を運ぶ。縁側に出て振り返れば、甲斐ちゃんとくのいちちゃんは手を振る。






「…あれは絶対楽しんでるよね」







小さく溜息とも似つかない息を吐く。


政宗様はきっと秀吉様のところにいるだろうな。あの方が大阪城に来たときは秀吉様にいつも御用があるときだ。

用事が会って来ているのにいきなり会うなんて迷惑じゃないかな。






「(政宗様はそんなこと思わないよ)」







言いたいことは言う性格だし、不安になる必要なんてない。大丈夫だいじょうぶ。

大きく深呼吸をして自分を落ち着かせる。

よし、平気だ!








「貴様なまえか?」






そこには私が恋焦がれているあの方が立っていた。腕を組んで不思議そうな顔をして私を見下ろす。気のせいか鼓動が少し早まる。

逢いたかった、愛おしいお人。









「政、宗さま…秀吉様の元にいたのではないのですか?」

「ああ、もう用は済んだわ」






政宗様は縁側に腰を下ろした。私を見上げて隣に座るよう催促する。それが嬉しくて頭を小さく下げ、隣に座らせて貰うことにした。

近い距離に鼓動は先程より幾分か早く鳴る。






「緊張しているであろう?」

「え?い、いえ!そんな事は!」

「わしに嘘は通じぬぞ」






口角をあげて横から私の顔を様子見する政宗様。

慌てて弁解するも政宗様は全てを分かっているような物言いで言い返す。





「お前は気づいておらぬだろうがわしと話すときはいつも赤面しておるな」

「いえいえいえいえ!!!そんなことは全くないでございまするぞ!!政宗様はゴジョーダンがお好きなのデスネ!!」

「はは、動揺しすぎじゃ」






普段見せない青年らしく笑うその姿は、誰もが魅了するくらいだ。そんな姿に私はつい見惚れてしまう。








「相も変わらず可笑しな奴じゃ」

「それ褒めてないですよね…」

「そう拗ねるではない」






私の頭に手を乗せて髪を梳くように優しく撫でられるという行為に、心臓がさらに早く鼓動するのが分かった。

こんな風に青年らしく笑ってくれるのが嬉しい。こんな風に優しくされるのがすごく嬉しい。






「なまえ、時間はあるか?」

「あ、はいっ大丈夫ですけど」

「ならばわしについて来い。城下街へと出掛けるぞ」

「へ」







政宗様は返事も待たずに私の手を引いて前を歩く。強引というか子供みたいというか…、でも内心すごく嬉しかったりする。

それにしても、





「(手!手!わたし政宗さまと手繋いでる…!!あわわわわわ)」

「お前が望むならば何でも買うてやるぞ」

「(緊張する緊張する緊張する、心なしか手に汗かいてるかもしれない…どうしようどうしよう)」

「なまえに似合う着物でもあれば良いのだが」

「(あああああ、頭真っ白だぁああああ)」

「お前は淡い色が似合うであろうな、桃色などはどうじゃ」

「へ!?あ、はい!!きっと政宗様にお似合いですよ!」

「…わしが似合ってどうする」

「………。(私の馬鹿ぁあああ)」











(うわ!あの二人手なんか繋いじゃってるよ!)(嘘でしょ!?)(何だかんだそういう仲なんだー)(恋人の一歩手前って感じだけどね)





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主人公は政宗が好きで政宗も主人公を好きに近い感情で接してる感じ。恋仲とは言えない曖昧な関係なお二人です。

自分的に甘だと思い込んでます。書いてて砂吐きそうでした。

title by鈴が鳴る



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