「今回の戦は私も出陣する」







思わず耳を疑った。
目の前に立ちはだかり俺の顔を見上げる彼女は、秀吉様とおねね様の御子女のなまえ様である。







「仰る意味が分かりません」

「そのままの意味だよ。今回の戦に勝てばお父様の天下に揺さ振りをかけることが出来るんでしょう?」

「相手はあの家康、簡単な戦ではない事は貴女もお分かりでしょう」







戦に出すなどそんな危ない真似出来る訳がない。仮にも彼女は豊臣家の姫君だ。

立ちはだかるなまえ様の横を通り過ぎて早足で戦の準備に取り掛かろうとするが、また目の前に立ちはだかって今度は少し強い口調で言う。





「お父様とお母様からは許可が出ているの。だから平気だよ」

「…、」






許可を取った。それを聞いて不快そうに眉間に皺を寄せる俺とは真逆ににこやかに笑う。

いつか戦に出たい、と申す事があるだろうと思い、秀吉様とおねね様にあれ程釘を刺して置いたと言うのに。

秀吉様とおねね様はなまえ様に甘い為、彼女の押しに負けて許してしまったのだろう。








「私は賛成出来ません」

「なぜ?」

「貴女が戦に出る必要はないからです」








秀吉様の天下の為、その心意気はとても綺麗だ。感嘆するものであろう。だが万が一大怪我をしたらどうするというのだ。もしかしたらそれだけでは済まないかもしれない。命だって落とした兼ねない。








「戦だもの。もしかしたら死ぬかもしれないものね」

「、そのような事」

「私が死んだら豊臣家に未来が無くなってしまう」







だから三成は戦に出すことを拒むんでしょう?豊臣家を途絶えさせるわけにいかないもんね。

そう呟く彼女は何処かいつもと違う。彼女はきっと勘違いしているであろう、俺がなまえ様を戦に出さないのは彼女自身を心配しているわけでは無く、豊臣家の姫君として心配しているのだと。

違う、そうではない。そういった憧れの感情ではない。









「秀吉様より豊臣より何より貴女が心配だから止めているんですよ」







全てを捨ててでも守りたい、傷つけさせたくなんかない。人を殺めるなどそんな真似させるわけがない。

キョトンと俺の顔を見るなり、俺の言葉に理解したらしく白く透き通る頬はみるみる赤く染まる。見ていて飽きない方だ。








心中御察し下さい
(なまえ様の出陣は禁止と言ったはずですが?)(お前さま!三成がカンカンだよ!)(三成、これには深い事情があってだな…)





FIN


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アンケート第3位
大切だから心配もする。


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