私はいつだって臆病者で自分の気持ちを偽って生きてきた。貴方に好意を抱いている事を伝えたくても結局は勇気が出ないまま何年も時が過ぎてしまった。鈍感な貴方は私の気持ちなんて気づいていないでしょう。 もうこの想いは一生伝わらない。伝わらなくていい、気づかなくていい。私のこの気持ちはきっと今の貴方には足枷にしかならない、時間さえも経ちすぎてしまった。 「ここは殿の命により絶対に通させないわ」 「っ……なまえ殿、」 行く手を阻むのは真っ赤な鎧を見に纏う、敵方の真田幸村。 幸村は私の顔を見るなりほんの一瞬だけ顔を歪める。そんな顔しないでよ、私だって本当は一番貴方となんて戦いたくないんだから。徳川側が明らか優勢なのは誰もが分かっている。それは幸村自身が一番分かっているはずなのに、どうしてそこまでして自分の意地を通すの。 「退きなさい幸村」 「これは武士としての意地。退きません」 「貴方は本当に頑固だね」 退かないなら、無理矢理退かすのみ。 薙刀を幸村に向け走り出す。後ろにいた兵も私の後に続く。切っ先を僅かに幸村に掠めるが、それを上手く槍で返される。 「はぁっ!!」 「………っ、は!」 やはり男女の差は大きい。力負けしてしまう。振りかざされる槍の重さに歯を食いしばり、押し返す。 鳴り響く金属音に顔を歪め幸村の攻撃を交わす。 「…はっ、」 次第に息も上がって来て意識が朦朧としてくる。朦朧とした頭の中では目の前の彼を退かす事しか考えていなくて、体中さえぐらぐらと熱くなる。凄まじい金属音さえも頭には響かない状態だ。 「っ、!」 「…やぁ!!」 ねぇ幸村、貴方はここを通る意味分かっているの? キン! …ギィン! 「ぅあ!、」 「なまえ殿…」 ここを通るって事は、 死にに行くようなものなんだよ。 ガキィン!!! 薙刀が宙を舞って地面を突き刺さる。私は地に手をついて息を整える。幸村を見上げれば随分穏やかな顔をしていた。 「はぁ、はぁ…幸村?」 「なまえ殿と話すのも今日で最期ですね」 「ゆき、」 幸村は温かい手で私の頬に触れた。その温もりに涙が出そうになるのを必死に堪えた。 「ずっとお慕いしておりました」 誰よりもなまえ殿に惹かれていたのは私です。 幸村は小さく微笑んで触れていた頬に手を離し、私の横をすり抜ける。 私は目を丸くする事しか出来なくて、何か言いたくても言葉が出てこない。今伝えなきゃ絶対後悔してしまう。 伝えなきゃ、伝えなきゃ。 「ゆ、きむらぁっ!」 涙を必死に堪えて貴方の元に駆け寄る。今度は幸村が瞳を丸くさせる。 「私…貴方が一番大切…な、の」 徳川より何より幸村が私にとっての一番なの。貴方が私の全てなんだ、大好きなんだ、貴方が私の誇りなんだよ。 本当は行かないで欲しい、生きて欲しい。 でもきっと貴方は意地を通して行ってしまうんだ。それが死ぬ事だと分かっていても。 「なまえ殿と出会えた事、心より喜ばしく思っております」 「幸、村っ」 「さようなら」 笑顔で別れを告げる貴方に私は涙を流すしかなかった。想いは伝わったのに、戦国の世とはなんて悲しすぎる現実。 "行かないで"も"行ってらっしゃい"も告げる事が出来ずに、ただ貴方が殿へ向かう姿が私の瞳に焼き付いて離れない。 瞳に映るは緋の鎧 (日本一の兵は貴方の為にある言葉ね) END = = = = = = = = = = アンケート第5位 大坂夏の陣、最期の戦い . ← |