もしもの話をしようか。






私達がエクソシストじゃ無くて普通の人間だったら。考えても仕方ない事かもしれないけどたまに考えてしまうときがある。

もし普通の人間だったら何をしてたんだろう。









「エクソシストじゃ無かったら、ですか」

「うん。どうしてたのかなぁって」

「んー難しい質問ですね」







アレンは顎に手を沿えて天井を見上げた。談話室の窓の隙間から降り注ぐ太陽の日がポカポカして気持ちいい。








「多分僕は旅芸人ですかね。教団に来る前はピエロとか色々やってましたから」

「旅芸人かぁ!なんだかアレンらしいね」

「そうですか?」




うんそうだよ。そう答えればアレンは柔らかく笑った。アレンのそういう笑う顔が初めて見た頃から好きだった。







「でも何でいきなりそんな事を?」

「いやただ気になっただけだよ、どんな生活してたのかなぁってさ」






湯気のたったアップルティーを口に運ぶ。口いっぱいにアップルティーの味が広がる。うん、すごく美味しい。








「なまえだったらどうしますか?」

「私は、わかんないや」

「分からない?」




うん、分からない。
もう一度呟いて目を伏せる。







「私、家族とか居なくて孤児院で育ったから、エクソシストじゃ無い生活なんて想像出来なくて」

「………なまえ…」

「戦争は無ければいいと思う。けど、戦争があったおかげでアレンやみんなと会うことが出来た」





仲間が、家族が…大切な物が出来るようになった。それは教団に居なければ分かる事はなかっただろう。

独りだったら感じる事の無い温かみ。









「だからたまに思ってしまうの、もしもの事を」





自分の事は全く想像つかないけど何度も物思いにふけてしまう。











「でもそれは"もしも"のお話でしょう?現実は僕達はエクソシストです。

そんな例え話はしなくていいんですよ」




僕達は仲間であり、教団のみんなは家族なんですから…。



にこり、とさっきと同じ、柔らかく微笑まれると何も言えなくなってしまう。

何だか肩の力が抜けたように軽くなった気がした。











「うん…そうだね。これはもしものお話だもんね」

「そうですよ。そんなお話より今現在のお話をする方が楽しいですよ」

「ふふ、じゃあ何か面白い話をしてくれる?」

「はい、構いませんよ」










本日三度目のアレンの柔らかい笑顔。その笑顔を見てまた少し気持ちが軽くなった。

私は少し冷めたアップルティーを再び口へと運んだ。












それはただの例え話、本当の世界はこんなにも暖かい。

(この間ラビのきたら)
(あはははっ、ただの愚痴になってるよ)





FIN