毎回毎回人が飯を食う時に必ずと言っていいほどヤツは現れる。そしてオレが食べる蕎麦を見ては鼻で笑って、「あぁ蕎麦ですか所詮蕎麦ですか(嘲笑)」そう言って目の前を通り過ぎて少し離れた場所で飯を食べる。ヤツは確か科学班に所属していた。

何だあの女は、ケンカ売ってんのか?以前に一度、何かあんならはっきりいいやがれ、と言ったらヤツは、「脳みその足りない神田ユウさんに理解出来るはずがありませんよ(爆笑)」
そう一言残して高笑いをして食堂を出て行った。

あの時はガチでヤツを六幻で切り裂いてやろうと思った。しばらく姿を見なかったから清々していたが今またヤツが食堂に姿を現している。







「あ、神田さんじゃないですか。まだ生きていたんですね、最近姿を見ないのでもう逝ったかと思いましたよ」

「性格わりぃ女だなテメェは」

「貴方ほどではありません、ついでに頭の出来も」

「どういう意味だ!」

「そういう意味です」








嫌味炸裂。相変わらずムカつくヤツだ。これ以上こいつに関わりたくねぇ、そう思ってオレは注文した蕎麦をひったくって開いてる席に座った。

蕎麦を口に運ぼうとする時ふと目の前に影が映った。








「…何だよ」

「いえ、ただ毎食蕎麦で厭きないんですかねーとか思っただけです」

「蕎麦だけじゃねぇ。天ぷらもあんだろ」

「美味しそうですね、……あ、美味しい」

「食ってんじゃねぇ!!」

「たかがカボチャの天ぷらのひとつやふたついいじゃないですか。……あともう一個、」

「食うな!!」








バチンっと天ぷらを啄もうとしたヤツの手をハシで叩いてやった。図々しいにもほどがある。









「最低ですね…お箸で人の手を叩くなんて、行儀がなってないですよ……って神田さんにはそこまで理解出来ませんよね…すみません……」

「ふざけんな!
テメェ人を馬鹿にすんのもいい加減にしろ」

「馬鹿になんか!見下してるだけですよ!そっちこそ馬鹿にしないで下さい!」

「そういうのを馬鹿にしてんだろうが!」

「馬鹿を馬鹿にして悪いですか」

「認めんの早ぇよ」









どうやらこいつはそうとうオレをキレさせたいらしい。否、もうキレてるけどな。シカトして再び蕎麦を口に運んだ。










「そんなに蕎麦好きですか」

「テメェよりはな」

「へぇー」









人が質問の返事を返せばなんだその興味無さそうな返答は。へぇー、で終わらせるなら最初から訊くな。不愉快指数が少しずつ上がっていくのが分かった。













「でも神田さん…蕎麦とは結婚出来ないんですよ?」

「あ?」

「蕎麦は子供産めないんですよ!」

「当たり前だろ」

「ましてや消化したら体内から出て行ってしまうんですよ!クソですクソ!貴方それでもいいんですか!」

「何言ってんだテメェは!!」










ついに頭がイかれたかと思った。食堂にいるヤツらが皆オレとコイツを見ては小声で何かを話している。テメェら、オレは関係ねえ。騒いでいるのはこの女だ。














「神田さん…もう一度訊きます。蕎麦好きですか?」

「お前は嫌いだけどな」




「そう、ですか。
私は好きですけどね」















その言葉にらしくないがつい目を見開いてしまった。絶対にヤツの口からは出てこない単語が今コイツの口から出たことに驚きだ、何を言っているコイツは…。びっくりして呆気に取られた。

普段は無表情な癖にニコりと微笑んでいる。その表情に余計何て反応したらいいか戸惑った。










「好きです……」

「な、」




「カボチャの天ぷらが」

「………………」






………そっちかよ。















紛らわしいにもほどがある
(さっき恋に落ちました)(………ふざけんな)





FIN