お昼時の食堂は当然ながら大変賑わっている。科学班の研究員やファインダーやエクソシスト、他教団に入団している団員たちが腹を空かせてここにやって来る。エクソシストである神田ユウも腹を空かせていたその一人であった。教団一短気と謳われる神田の両隣と前の席は親しい者でない限り大抵空いている。が、今日は彼の隣には一人のエクソシストの少女が座っていた。その彼女の前の席に白髪が目立つアレン・ウォーカー、そしてアレンの隣には彼の監視員であるハワード・リンクが座っている。

神田とアレン。何とも珍しい組み合わせの二人が一緒に食事をしているんだと、彼らの周囲にいた団員たちは思った。

神田とアレンが一緒に食事をしているのはエクソシストのなまえがご飯を一緒に食べようと言い出したのが事の始まりだ。いつものことだが、どことなく険悪なムードを醸し出している二人をなまえはにこにこして眺めている。否、二人というより視線の先は神田しか入っていない。






「あのー…」

「どうしたのアレン?」

「いや、何で神田を見て食べてるんですか?」





俺を見ながら飯を喉に通し、食事をするなまえ。モヤシの監視員が作った無駄に甘そうなケーキを頬張っている。

またかと内心ため息をつきながら蕎麦を啜る。コイツが食事中に俺の顔を見てくるのは今に始まったことじゃない。何年も前からだ。昔一度訊いたことがある。何故俺の顔を見ながら食べるかと。そしたらなまえは「わたしのご飯を食べる法則!」なんて理解不能なことを笑顔で言いのけた。全くもって意味が解らねえし、どうせ下らないことなんだろうと思い、それから理由は訊かなくなった。






「これはわたしのご飯を食べる法則なんだ」

「…………へ、え。意味は分かりませんが神田を見ながら食事するなんて不愉快な気分になりませんか?」

「俺は現在進行、テメエが目の前にいることが不愉快だがな」

「こっち見ないで下さい。せっかくのご飯が不味くなります」

「テメエの食い方の方がよっぽど飯が不味くなる。後ろ向いて食え馬鹿モヤシ」

「貴方達はどうしていつも喧嘩をするんですかね。エクソシストたるものもう少し静かに食事をしたま「リンクさん、アップルパイもっと食べていい?」






監視員の返事を待つ前にぶすりとアップルパイをフォークに刺した。監視員は人の話を遮るな、やら何やら言っていたが、コイツはその声を無視してまた先ほどの通り過り俺の顔を見てケーキを口に入れた。







「神田は本当に綺麗な顔してるね」

「あ?」

「惚れ惚れしちゃうなあ」






口の端にパイ生地を付けながらにこにこと神田の顔を覗き込む。ふわりとアップルパイの甘い匂いが神田の鼻孔を擽る。甘いものが苦手な神田はその匂いに思わず眉を潜めた。







「睫毛長いなー」

「邪魔だ。食いづれえ」

「いやー」

「女性が意味もなく男の顔に近づけるなど、そんなはしたない真似は止めたまえ」






監視員がなまえに指を指しながら注意すればコイツは首を横に振った。







「意味無くじゃないよ。だって大好きな人の顔を見てるとご飯が何倍にも美味しくなるんだもん」






思わず箸を落としかけた。聞き間違いでなければ、コイツは今とんでもないことを言った。自分の動揺を隠しながら横目で彼女を見やる。







「大好き」








どうやら聞き間違いではなかった。恥じらいもなく二度も好きだと笑顔で言い放ったなまえは、何個目かのアップルパイを再びフォークに刺してはまた俺の顔を見ながら口へ運ぶ。

どういう意味で言ったのか。それは一人の男としてなのかそれとも仲間としてなのか。いや仲間としてなら俺の顔だけを見て食事をするはずがない。しかも数年前からだ。ということはコイツは昔から俺のことが。いや単にこいつの気まぐれかもしれない。だが、気まぐれでそんなことを言う女ではないことは俺が一番良く知っている。……くそっ、何をこんなに女々しく考えてんだ…!気持ち悪い…!


なまえの言葉に全くと云って何も反応しない神田にアレンやリンクは興味がないかと解釈した。蕎麦を無表情で啜る姿は他者から見ると何らいつもと変わりがないように見えるが、心中では酷く動揺していた。







(蕎麦の味がわかんねぇじゃねえか)







fin.



リンク「貴女は私のアップルパイを食べすぎです」