今回の任務で彼女は殉職した。アクマに隙をつかれて死んだのだ。アイツと別の場所でアクマと闘っていたのが悪かったんだろう。俺が向かったときにはもう遅かった。そこにはただ血にまみれたの肉片の塊化としたアイツがいた。幸いアクマは破壊していたらしくアイツの手には自身のイノセンスと収集目的とされているイノセンスが握られていた。

イノセンスを回収するときに触れたアイツの手は酷く冷たかった。死人ってこんな冷たいもんか?俺は一瞬、びりりと背中に電気が走るような感覚に陥った。そうか、死んでいるんだった。ほんの少し前まで生きていた人間だったのにな。








「ラビ、お疲れさま」

「ああリナリーか。わざわざ迎えありがとな」

「ううん。あの…なまえの話、聞いたよ」






教団に戻った後、コムイにイノセンスを渡しに行った。事情を知っているコムイは目尻を下げて「今回は本当に残念だったね」と顔を苦くして言った。俺は自嘲染みた表情で「そうさね」とひとつ零して科学室を後にした。

報告書を書こうと自室に向かう途中、偶然にもリナリーに会った。俯くリナリーの顔をよく見ると目が赤い。きっとたくさん泣いたんだろうな。僅かだが声が震えているように感じた。リナリーとなまえと仲が良かった。アイツとリナリーがよく一緒にいるのを俺は見かけていたし大方、親友だったんだろう。

仲の良かった友人を亡くして悲しいんだろうな







「ラビも、辛かったね」

「…」

「仲良かったもんね、ラビとなまえ」

「…俺とアイツが?」

「私はとても仲良さそうに見えたよ」






赤く腫らした目でリナリーはラビに微笑んだ。「今日はゆっくり休んでね」そう残してリナリーは去っていった。

仲が良かった?アイツと、俺が?

違うだろ。それはアイツとリナリーさ。確かに一緒にいることは多かったかもしれない。だけどそれはたまたまアイツと俺の趣味が合っただけで、仲が良いとは全く別問題だ。痛む傷を押さえ自室へと向かっていった。






▽▲








「…ビ、ラ、ビ…ラビッ」

「うおっビックリしたさー。…なんだよ急に」

「急にじゃないって。人の話聞いてた?」

「わり。寝てた」

「オイ、本当ラビってどこでも寝れるんだねー羨ましいというか気楽というかね。あとチャラい」

「チャラい関係ねぇし、全く失礼なやつさ」

「嘘。冗談だって」

「あー本当ひでえー俺傷付いたーショックで熱出そうさー」

「だから冗談だってば」

「なまえちゃんってば俺のことチャラいなんて思ってたんかー俺かわいそー泣きそー」

「ラビしつこい!冗談って言ってるのに。もういいラビなんて知らない」

「ふはっ、そんな怒んなって…!ていうかお前怒り方が…ガキ、ぶふ…っ!」

「アンタ笑いすぎ」








がくん
突如揺れる衝動に目を見開き辺りを見渡せば、一面新聞だらけで薄暗い自分の部屋だった。同室のじじいはいない。多分任務か。俺はどうやら報告書を書いてる途中で寝てしまったようだ。浅い眠りだったせいか夢を見た。ほんの数週間前にアイツと会話した内容だ。

そういやアイツ、俺が持ってた歴史の本借りたいって言ってたな。あの本、種類多いからどれがいいか訊いてくるか。そう思って席を立とうと椅子を引こうと手を伸ばすが、自分自身でそれを拒否した。







「なに、やってんだ俺」





アイツは死んだから本のことなんて訊けないだろ。馬鹿さ、何やってんだ。そうだ、アイツはもういない。死んだんだよ。

頭をくしゃりと掻いてペンに手を伸ばした。今そこで気づいたが報告書がインクでべっとり汚れていた。あーあやっちまった。いつ倒しちまったんだろう。もしかして寝てたときか?

一枚の紙の端を指先で持つと、インクを十分に吸った紙がポタポタとインクが垂れ落ちテーブルを汚す。

そんな紙にラビは無表情でそれを見つめた。









「結局お前も紙の上のインクに過ぎなかったってことか」







ぐしゃり
インクで汚れた紙を握り締めてそれを床に捨てた。無表情だった表情は崩され、吐き捨てた言葉とは裏腹にラビの表情は酷く曇っていた。








「ばか、だよ…お前っ本当、」









アイツが死んだ理由。
あの場にいた子供を逃がそうとした際に隙をつかれてしまったらしい。心配で戻ってきた子供が俺にそのことを話した。

インクで汚れた手をそっと握りしめて、その手をラビは胸に当てた。どうして今更お前が死んでから寂しいとか思ってしまうんだろうな。お前が死んでから俺の胸が痛くて痛くてどうしようもないんだ。









fin.

やばい死ネタ楽しすぎる