「ねぇアレン。私もね君と同じくアクマのこと大好きなのよ。アレにとてつもない愛しさと愚かさを感じるの。…理由?そうね、アクマは人間を殺すための殺人兵器じゃない?殺すためだけ、と言ってもいいわ。でも何故かアクマは進化をすると自我を持つ。機械なのにダークマターが自我を持つのよ?可笑しいわよね、どうして殺人兵器が自我なんて持つのかしら。必要無いと思うの。機械も人間と同じように楽しいとか辛いなんて感じるのかしらね。そういえばエクソシストに恋したアクマもいたわよね。エリアーデというアクマだったかしら?すごいわよね、寄りによってどうしてエクソシストを選んだのか不思議でたまらないわ。まあ結果的破壊されてしまったけど。そうよ、自我を持ってもどうせエクソシストに壊されてしまう運命。せっかく生まれた自我も何もかもパア。そう考え始めたらなんだか愛しく感じられずにはいられなくなっちゃったのよ。
愚かしいと思う理由も教えてあげるわね。アクマって浄化した魂が冥界から呼び戻されて殺人兵器になるじゃない?その魂を呼び戻した人間って大体は死んだ人間と親しい間柄な訳で。呼び戻すってことはその死人を愛しているからよね。私はそれをとても美しい愛だと感じるのよ。…ふふっ、呼び戻そうとした人間が誰も殺人兵器のアクマになるなんて想像もしなかったでしょうにね。私はその美しい愛がね、愚かしくて堪らないの」
嘲笑うかのように愉快そうに笑うなまえ。話を聞いていたアレンは複雑そうに顔を歪める。あまり気持ちの良い話の内容ではなかった。彼女の話はいつもそうだ、居心地が悪くなる話ばかりする。……理由なんて訊くんじゃなかった、アレンは軽はずみに発言した数分前の自分を少し後悔した。
カップに入った熱いダージリンを少しずつ口内に滑らせれば、熱いものが喉を通ったのが分かった。カップをソーサーに乗せると彼女がこちらを見ていたことに気がついた。
「アレンはアクマに対しても人間に対しても優しいからね、もしかしたら私の話を聞いて怒っちゃったかと」
「自覚があるなら僕を怒らせるような話はしないで下さいよ」
「あら、ごめんなさいね。でもどんな理由であれアクマを愛しく思っているのは本当よ?」
「反吐が出そうな理由ですけどね」
僕がそう吐き捨てれば彼女は笑みを絶やすことなくこちらをにこにこしながら見ている。注いでやったカップの中身を覗くと中身は何も減っていない。ダージリンが飲みたいと言い出したのは彼女なのに。とんだ我が儘な人だ。
「アクマに愛しさを抱くなまえさん」
「なにかしら」
「人間に愛しさを抱くことはないんですか」
「…」
なまえさんはぴくりと眉を動かしてテーブルに肘を立てその手を顎を乗せる。
「ないわね。人間同士の愛に美しさを感じても人間に愛しさなんて抱かないわ。もし抱いたとしたら愚かさなんて感じているはずがないじゃない」
「貴女らしい返答をどうも」
「お気に召さないようね」
「あまりに予想通りで意外性がなかったです」
「あらそう」
愉しそうに口を弧に描きながら漸く彼女はカップに口を付けた。湯気の立ちが少し穏やかになった紅茶を少量ずつ喉に流したなまえさん。ひとつ気づいたが彼女は決まっていつもハーブティーを好んで飲んでいた。なんで今日はダージリンなんだ。
「私ね本当はダージリン苦手なの。好きになれないわ」
「苦手なものを飲むなんてマゾなんですか」
「否定はしないであげる。強いて言うなら克服したいのかもしれないわね」
「へえ…?」
「ダージリンも、人間も」
誰かにこれを言ったのはアレンが初めてね。そう告げ足すなまえの言葉に少し目を見開いた。そんなアレンの姿を気にせずになまえは再びカップに口を付ける。
僕はすっかり彼女、なまえさんが人間が嫌いなのだと勝手に思っていた。否、違った。ただ苦手としていただけだ。どうして人間が苦手なのかは知らないし訊かないようにした。だけど僕だけにそれを教えてくれたのは少しだけ嬉しかった。いや、本当はとても嬉しかった、かもしれない。
fin.
意味が分からない
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