「はいっ」
「…何だこれは」
「蕎麦だよ。ユウ好きでしょ?」
にっこりした笑みを浮かべて神田に蕎麦とめんつゆを差し出すなまえ。年は神田と同じだが微笑む彼女の姿はひどくあどけない。
俺は30分程前に任務から教団に帰還し、アクマの返り血がこびりついた体を洗い流した。風呂から出た後は自室に戻りベッドに身体を預けた直後、自室を訪れたのはなまえだった。
蕎麦は嫌いじゃねぇ。むしろ好きだ。だが、任務後に蕎麦を食べる気になれない。飯より優先すべきは睡眠だ。
「今はいらねぇ」
「えっ」
「任務で疲れてんだ、寝る」
ドアの前に立つなまえに部屋から出ていくよう目で訴える。
「……ユウが蕎麦好きだからジェリーさんに作ってもらったのに」
「…」
「ユウに食べてもらいたかったのに……」
「おい、」
「お節介、だったね」
俯くなまえの声はいつもより張りが無い。下を向いてるせいで表情は分からないが大方想像はつく。コイツがこうなるときはいつも泣く直前だ。
泣くとなると色々面倒になる。特にリナリーがうるせぇんだよ。いつものように舌打ちをして、ベッドに降ろした腰を上げてなまえから蕎麦とめんつゆを奪う。
「ユウ…食べてくれるの?」
「箸」
「…はいっ、 ユウは優しいね」
「腹が減ってるだけだ」
腹なんて大して減っては無いが、面倒に巻き込まれるより食った方がマシだ。サイドテーブルに蕎麦とめんつゆを置いた。箸で蕎麦を掴もうと手を伸ばすが、俺は異変に気づき思わず動きを止めた。
……何かが蕎麦の上にかかっている。
「なまえ、この上にかかっているものは何だ」
「とろろ…だよ」
「嘘つくな」
「…………」
「はっきり言いやがれ」
「生クリーム」
「馬鹿か!」
サイドテーブルに箸を叩きつけた。明らかおかしいだろ!何で蕎麦にそんな甘ったるいものをかけたんだ。味がおかしくなるだろうが。…食えるかこんなもん!
「ラビがね、ユウは甘党だから好物の蕎麦に生クリームをかけると一度に二度美味しいって教えてくれたの」
「甘党なんて一言も言ってねぇよ」
あの眼帯余計なことを言いやがって!いつ俺が甘党だと言った!!下らねぇことなまえに言ってんじゃねぇよ!
食う気も失せた神田は苛立ちからか大きなため息をついた。
「食べないの…?」
「食えるわけねぇだろ」
「……………」
「食う」
なまえは泣きそうな表情を浮かべると、神田はマズイと思ったのか食べることを決意した。
山葵を少量だけ取ってめんつゆに溶かす。生クリームがかかっていない下部から蕎麦を箸で掴み、めんつゆにつけて口に運ぶ。
「ゴホッ!ゲホッゴホ!!」
「ユウ!どうしたの!?」
口に入れた瞬間、盛大にむせた神田。蕎麦を食べただけでむせるなんて器官でも入ったのだろうか。なまえは心配になって神田の背中をさする。
咳が落ち着いた神田はなまえを睨みつける。
「このめんつゆコーヒーじゃねぇか!!」
「え?うんっアレンくんがユウはいつもコーヒーで蕎麦を食べるって教えてくれたの」
「あのクソモヤシ!!」
めんつゆと言う名のコーヒーを再びサイドテーブルにたたき付けた。これはもはや蕎麦という食べ物じゃない。
ラビといいモヤシといいあいつらは相当暇人だな!そんな奴らの言うことをあっさり聞き受けるなまえもなまえだ!!冗談じゃねぇ!!
「………っ、…」
「な、オイ」
「ごめっ…私のせいで、ユウごめんね…っ…」
ボロボロと泣き出すなまえ。泣かせないよう気をつけては甘かったらしい。
マズイ、 これは面倒なことになる。これ以上大泣きしたらなまえの居場所を嗅ぎ付けたリナリーが確実にこの部屋に来るはずだ。そして長ったらしい説教をさせられる。説教なんて時間の無駄だ、それだけは避けたい。
本日二度目のため息をついてなまえを横目で見る。……泣きっぱなしだ。
チッ!食えばいいんだろ食えば!
Oh shit!(あぁクソ!) (まじでユウの奴食ったん?)(そりゃもう豪快に!)(神田はなまえに弱いですねーハハハッうける)(笑いを堪えるのに必死だったわ)(ナイス演技です)(お前らひでぇなー)
その後神田が医務室で胃薬を貰った姿をなまえはしかと見て、しっかりカメラに収めた。そんななまえの裏の顔は神田は知らない。
FIN
無駄に長くなってしまった。なんか主人公の性格が悪い!いや違うんです。主人公は神田に良く見られたくて猫被ってるだけんです。根はいい子だよ!
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