頭が痛くなる。

数字だらけの羅列、見飽きるほどのたくさんの化学式。仕事が終わらないから寝たくても寝られない。休みだって少ないから遊びに行きたくても行けない。この国というかこの教団の労働基準法はどうなっているのか。否、労働基準法なんてこんな宗教団体には関係ないのだろう。今になってどうして自分の時間さえ自由に使えない所に入団してしまったのだろう。

頭の中では後悔という言葉で埋め尽くされる。







「…はぁ」

「堂々と科学班で焼き肉食ってる奴がよく言うさ」







じゅうじゅう


科学班の誰もが目を血走りにして仕事をしている中、優雅に網の上で肉を焼く女が一人。明らか浮いている、場違いだ。

科学班らしからぬ肉の焼ける香ばしい香りが一面に広がる。







「あら心外ねエロスジュニア」

「ブックマンだよブックマン」

「私はね疲れてるの、昨日だって12時間しか寝てないのよ」

「そんだけ寝れば十分だっつーの」






本当に忙しいのか。
思わずラビは聞きたくなったがどうせ「忙しいに決まってるじゃないアンタ目は確か?」なんて返されるのがオチだと悟った。

科学班のメンバーはなまえを見るなり、何でここで肉食ってるんだと誰もが考える。呆れる科学班'sを余所に彼女は肉をタレに付けて食べる。もちろんラビも呆れている。







「いつ見てもなまえはどうしようもない奴だな」

「やっぱり焼き肉にはタレよね」

「うわー…聞いてねぇー」







個人的にレバーが一番焼き肉の中で王様だと思うの。なのに苦手な人が多い。レバーの美味しさに気付いていないなんて人生七割損してるとしか思えない。

ひたすら肉(レバー)を食い続けける女に注意する人間が誰もいない事に驚きだ。

唯一上司にさえお構いなしに注意するリーバーが現在いないため仕方ない事だろう。リーバーがいないのはあらかた想像はつく。仕事サボリの常習犯、メガネ・リー(not間違い)を探している最中だ。






「コムイがいないんじゃ報告書渡せねぇさぁ」

「私が預かっておくわよ」

「え、いいんか?」

「ふふ大丈夫よ、任せてちょうだい」

「じゃあ…任せるさ…」







滅多に笑わない彼女に安心を覚えたのか、報告書をなまえに渡した。

すると彼女はほど好く焼けたレバーにタレにつけてラビに差し出した。

まさか、








「任務大変だったでしょう?はい、あーん」









そうまさかのあーん。

一瞬驚きを隠せ無かったラビは隻眼を見開く。だが普段無愛想な彼女が柔らかな笑顔であーんをしてくれるのだ、レバーだろうが純粋に嬉しく思った。







「あーん」

「い、いただきまーす…」






躊躇いながらも口を開く。
内心気持ちは高ぶっている。






カタん


「…あ」

「?」





音のする方向に視線を向ければそこには焼き肉のタレまみれの報告書が。






「私のタレが…」

「ちげぇだろ!報告書がタレまみれさ!」

「あぁ勿体ない…」





愕然とする彼女。だがそれ以上に難易度が高い任務に出ていたラビは苦労して書いた報告書がパーになったのだ。

結局あーんもしてもらえず、報告書はやり直し。ただ仕事が増えただけのラビだった。





end