私はエクソシストなんだから死と直面することはよくある事。だからいちいち死を見る度に涙を流すなんてそんな無駄な行為はしない。そんな事する暇あったら鍛練した方が身の為だ。そう自分自身決めていた。

決めていたはず、だった。








「おい」

「…」

「おい」

「私はオイって名前じゃない」

「止まれなまえ」

「なに」







今回の任務で一緒だった神田は報告が終わった際、いつもだったら自室に向かう癖に今日に限って珍しく私に話しかけた。

私は後ろから神田に話しかけられるも振り返らずに小さく返事をした。






「お前」

「私急いでるの。用が無いならもう行くから」

「まだ話は終わってない。聞け」

「だから何よ。今日の神田変」



いつもの神田ならもっと潔いはずでしょう。歯切れが悪い神田なんてらしくない。







「なんだその態度」

「、?」

「強がるのもいい加減にしろ」

「なに、が」







思わず足を止めて振り返る。窓に映った私は今にも泣き出しそうな顔をしていた。何よこの顔。なんて酷い顔なの。

神田がこんなこと言うのは彼が何もかも知っているからだ。さっき任務で何があったってことを。こんな情けない顔を見られたくないって事も、震えている声を必死に抑えているのを彼は全て知っている。

母親がアクマになって、どんな思いで私がそれを破壊した事も、彼は知っている。







「情けねぇ面」

「余計な、お世話よ」

「涙を流すなんて無駄な行為しないんじゃねぇのか?」

「泣いてなんかっない」

「今にも泣きそうな顔しやがって馬鹿くせえ」






神田はいつもの調子で冷たく言い放つ。泣いてなんかない。泣いてなんか無いけど一人になったら絶対泣いてしまう自分がいる。涙を流すなんて無駄なことはしないって自分で決めた事なのに。決めた事を守れない悔しさと、母をこの手で壊してしまった悲しさが一気に押しかけて目頭が熱くなる。






「神田には、関係ない…!」

「ああ」

「っ放っておいてよ」






ああ嫌だ嫌だ。見られたくない。泣く姿なんて見られたくない。やだやだやだやだ。嫌だ嫌なのに瞳からはボロボロと涙が流れる。我慢していた糸が切れてしまったのだ。情けない、なんて情けないんだ。涙を流さないって決めていたのに、決意がこんな簡単にも崩れてしまうなんて思っていなかった。

私はしゃがみ込んで泣き出してしまった。涙と共に出た嗚咽が恥ずかしくて見られたくなくて。情けない恥ずかしい悔しい悲しい。色んな感情が私の中に渦巻いた。







「笑いに来たんじゃない」

「…」

「よくやったと言いに来ただけだ」

「…ど、ういう」

「あの時、お前が泣くのを我慢していたのを俺は知っている」






"知っている"。やっぱり全部知っていた。ちゃんと見ていた。顔を上げたくてもこんな顔じゃ神田には見せられなくて、ただ子供のように泣きじゃくった。





「今は俺以外誰も見てねぇ。泣くだけ泣いてろ泣き虫女」





態度こそはいつもの冷たい神田には変わりは無いけど、声はほんの少しだけ優しいトーンになっていた事に気づいた。

勘違いかもしれないけど私にはそう感じられた。







「だれが泣き、虫よ…っ」

「お前だ」

「ちがう…っ」

「違わない。お前しかいない」






涙は止まって無いから違うと言い返していても説得力が無いのは分かっていても反射的に返してしまう。彼も頑なに泣き虫だと言い張るし、強情な所は私と似ているかもしれない。そんなこと言ったら怒られるかもしれないけど。











「    」

「あ?何か言ったか」

「何でも、」







ありがとうって言っただけだから。




FIN