愛しい時間

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帰宅すると彼は安堵のため息を漏らした。

ようやく警戒心が解れたらしい。そんな彼にわたしは労いの言葉を掛けると、急いでキッチンへ向かい夕食の支度を始めた。

ばたばたと忙しなくキッチンを行ったり来たりするわたしをカウンター越しに見つめる彼。

彼は幼いころに包丁でけがをしたことがあるらしく、それ以来怖くて炊事場には立てないそうだ。

わたしがこの家に来るまでの間、食事はインスタント、外食、コンビニのお弁当のみで生活していたらしい。

体が資本の仕事をしていてよく数年の間それで生活が成り立っていたものだと、ある意味では感心する。

食事の用意が終わるのを見計らって彼はテーブルの上の整理を始めた。

出来上がった料理をカウンターへ置くと、着々とテーブルの上へ運んでくれる。

最後に炊き立てのご飯をよそって彼に渡す。

キッチンを出て四葉をケージから出し、ステンレスで出来た容器に餌を入れる。

すぐに餌に噛り付こうとする四葉を静止し、その場に座らせようと試みた。


「明日も休みだし、昼間にゆっくり覚えさせたら? 今日は無理だって」
「うーん、そうかな」


彼はわたしが食事につくのを待っているようだった。

食事を目前にして箸を持ち両手を合わせているものの、食事に手はついていない。

これ以上彼を待たせるのも忍びないため、わたしも食事につくことにした。


「いただきます」


言うと彼は口いっぱいにご飯を詰め込んだ。やっぱりこの瞬間が愛おしい。


今日も無事に、一日が終わっていく。幸せそうな彼に笑みを零しながら、一日の終わりを噛み締めるように食事についた。










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