愛憎

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カチカチと時間を刻む音が部屋中に響き渡る。時計の秒針とは、こんなにもうるさく聞こえるものだっただろうか。

締め切った部屋の中、電気もつけず見つめているのは、液晶画面に浮かぶ彼女の名前。

青白い光が私の顔を照らす。

その光が眩しいと感じてしまうのは、手に持っているスマートフォンの液晶以外に光源が無いためだろう。

間も無く日付を越えようとする時刻に、私は一体何をしているのだろうか。

頭から薄いブランケットを被り液晶画面を見つめる事、早数十分。

チャットアプリのトーク画面を開いては閉じ、文字を打ち込んでは消し、なんの意味もない時間を過ごしている。

こんな時刻にわざわざ送る程の話題など思い付きもしないまま、自身の中に渦巻く薄暗い感情と睨み合っていた。

相変わらず一定間隔をあけて響き続けている耳障りな音に狂いそうになりながら、何度も何度も画面をタップする。

時折感じる憤りに堪え兼ね薬指の爪を噛む。

こんな時にいつも思い出すのは、思春期だった頃のこと。思い出になんてなるはずもない、忘れ去ることさえできない、あの日々が蘇っては自分自身を嫌悪する。

君は今頃、どんな夢を見ているのだろう。笑顔を思い浮かべ、胸が張り裂けるように痛んだ。


「伊咲……」


ぽつりと呟いたその声は、すうっと暗闇に飲み込まれていった。

突如として訪れる虚無感に息苦しさを覚え、瞳からはぽたりと大粒の涙が零れ落ちた。

いつからだろう、一人の夜がこんなにも辛く苦しいのは。

いつからだろう、君の体温を感じられないこの部屋が嫌いになったのは。

いつからだろう、君の存在が私の全てになっていたのは。

どうしようもない孤独感が全身を覆う。

君に触れたい、もう離したくない。そう思うたびに私は間違いを犯しそうになってしまうのだ。

君がもし、他の誰かのものになってしまったら。他の誰かとの幸せな未来が彼女に待っているとしたら……。そう考えるだけでより一層苦しくなるのだ。


「死にたい……」


もう一度呟いた言葉は、私の心に重くのしかかった。

一方的に感じてしまうこの感情に憎悪しながら、スマートフォンの電源を落とした。

考えても仕方が無い。こんな時間に君が起きているはずも無いのだから、行動に移そうが、寂しさが増すだけだ。

明日になれば大好きな君があの愛しい声で、あの愛しい笑顔で私の名前を呼んでくれるのだから。

その笑顔を力いっぱいに腕に抱いて、全身で君の鼓動を感じよう。嫌がられても悪態をつかれても、絶対にその手は離さないでいよう。

いつの間にか心に渦巻いていた濁りは消えてしまっていた。

愛しい君の姿を脳裏に蘇らせながら、私は眠りについた。











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