メリークリスマス
吐いた息が、ほわほわと宙を舞い、冷たい空気に溶け込んで消えてゆく。
空は少し灰色にくすんでいて、うっすらと雲が幕を成している。そのせいか、より一層の寒さを感じていた。
駅前は多くの男女で賑わって、並木道はキラキラとイルミネーションが輝いていた。
「思ってたより寒いね」
隣の彼女が呟いた。
「伊咲の手、冷たい。大丈夫?」
「冷え性だから……」
冷え切った僕の手とは裏腹に、彼女の手はとても暖かかった。握られた手にわずかに力を込めると、彼女はにっこりと微笑んだ。
僕を見つめる熱い視線に、どきどきと跳ねる鼓動がやたらと煩くて、僕は彼女から視線を外した。
「クリスマスに伊咲と一緒に居られるなんて、幸せ」
「何言ってるの? 去年も一緒に居たじゃん」
「それは部活のクリスマス会でしょ! それに去年はまだ友達同士だったから……」
彼女はそう言うと繋がったままの手を持ち上げ、手の甲に唇を落とした。
一気に全身に熱を帯びる。
「伊咲、顔まっか」
「あ……待って、こっち見ないで……」
熱くなった顔をマフラーに埋めて隠す。そんな僕の様子を見て彼女は、くすくすと笑い始めた。
そのとき、頬を何かが掠め、つられるように顔を上げた。
「雪だ!」
はらはらと、小粒の雪が空から舞い降りる。
宙を舞う雪はイルミネーションの光に照らされて、余計に輝いて見えた。
気が付けば、僕たちは口元をだらしなく緩ませて空を見上げていた。
「ホワイトクリスマスだね、愛羅ちゃん」
僕がそう呟くと、彼女はポケットから何かを取り出した。そして繋がれていた手が一度離れると、今度は左手を救い上げられた。
彼女の手に握られているのは、ピンクゴールドのリング。
彼女はそれを僕の薬指にするりと嵌めると、同じデザインのシルバーのリングを自身の薬指に嵌めて見せた。
「ペアリング。安ものなんだけどね」
そう言ってはにかむ彼女の顔が少し赤い気がした。反して僕は、驚きと喜びに胸が締め付けられ、言葉を失っていた。
そして、唖然としたまま自身の薬指に光るリングを見つめる。
「……嬉しくなかった?」
不安げな表情を浮かべた彼女が、控えめに問う。
必死に首を振ったその時、頬に涙が伝った。
「うれしい……ごめん、びっくりして……」
「泣くほど?」
彼女は僕の涙を指で拭いながら、またにっこりと笑みを浮かべた。
「毎日つけてね?」
そう言いながら僕の頭を撫でる彼女に、縋る様に抱き着いた。
「勿論! 肌身離さず着けておくね」
「よし、いい子」
満足げに言う彼女に、愛しさが募る。
「ありがとう、愛羅ちゃん。だいすき」
「知ってるよ」
抱きしめる腕にさらに力を込めた。彼女もまた、僕の腰に腕を回してそれに応えた。
いつの間にか、凍てつくような寒さは消えてしまっていた。
* * * * *
おまけ
伊咲「でも学校では外す」
愛羅「なんで……」
伊咲「先生に怒られたくないもん」
愛羅「……いい子」
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