Marriage Blue
ついにこの日がやってきた。
純白のドレスに身を包む君は、世界で一番綺麗だ。相反して僕は、なんと不幸なことだろう。
協会の硬く冷たい椅子に座り、ただただ君の後ろ姿を眺めていた。神父様の言葉などは、一切耳に届かない。今の僕に聞こえるのは、張り裂けそうな胸の音だけ。
君に届くはずのないこの声は、やがて溜め息へと変わり、小さく零れ落ちていった。
君と、隣に立つ男性が向き合う。そして、誓いのキスが交わされた。幸せそうな笑みを浮かべ寄り添う二人。僕の中で、何かが壊れてしまう気がした。
ウェディングベルの音が、辺り一面に響き渡る。
少しずつ高まってゆく、僕の鼓動。
こんな時、ありふれた映画のように、君を攫ってどこか遠くへ逃避行してしまえたら良いのに。僕は君のヒーローになって、君と二人で永遠の愛を誓い合って、映画はクライマックスへ……。
そんなラブストーリーを夢見ていても、一人芝居じゃ何の意味も持たない。
零れ落ちそうになる溜め息を押し殺すかのように、ぎゅっと下唇を噛み締めた。
式は滞りなく進んでいる。ここに居る誰もが皆、一様に笑顔で君の姿を見つめていた。今にも涙が零れてしまいそうな程に歪んだ表情を浮かべているのは、僕一人。
気慣れないスーツに、踵が少し擦り切れたシューズ。
俯き靴をぼんやりと眺め、せめて今日くらい新しいものを下せばよかったと、今更後悔した。
叶いもしないこの恋は、こうやってひっそりと幕を閉じ、思い出に移り変わってゆくのだろう。
突然の奇跡が起きて、君と僕が手を取り合って……。そんな大事件が起きるはずもなく、平穏無事に、式は終わりを告げた。
僕のすぐ傍を通り過ぎてゆく君は、本当に、本当に、とても綺麗だ。それこそまさに、悲劇のようだった。
僕の心を、想いを隠してしまうかのように、ライスシャワーの雨が降り注いだ。
晴れ渡る空、悲劇のように美しい君へ。精一杯の笑顔で、別れと共にこの言葉を贈ろう。
「おめでとう、幸せになってくれ」
愛しの君へ、さようなら。
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