遠まわり



ふと目を開けると、窓の外には、日が昇っていた。いつの間にか寝てしまっていたのだろう。ぼんやりとしながら、リビングへ向かった。キッチンから母が朝食を作っている音が聞こえる。

『おはよう……』

母は私に気が付くと、にっこりと笑って挨拶を返してくれた。
何だか今日は頭が働かないな、なんて思いながら、朝食を摂り、身支度を済ませ、玄関へ向かった。ローファーを履いて、重たい鞄を持ち上げて、私の後ろに立つ母を振り返る。

『じゃあ、行ってきます』
『行ってらっしゃい』

気持ちのいい笑顔で見送ってくれる母を後にして、玄関を出た。ふと顔をあげると、門の前に人影が見える。よく見知った後姿だ。私は急いでその人物の傍へ駆け寄った。
彼は私に気付くと、にかっと笑って、よう、と短く挨拶をした。

『どうして居るの?朝迎えに来てくれたことなんて無かったのに……』

戸惑ったまま質問を繰り出す私に、彼は相変わらずの笑顔で答えた。

『だから、昨日ちゃんと言っただろ』

言いながら歩き出す彼。慌てて後を追い、彼の隣に並ぶ。私には彼の言っている意味が分からなかった。

“もう終わりにしよう” “また明日”

昨日、確かに彼はそう言った。しかし、それが何を指すのか、私には検討も付かなかった。

『昨日は、終わりにしようって言った』
『だからこうやって迎えに来た』
『今まで通りに戻るってことじゃ……』

私の言葉を耳にした途端、彼は立ち止まり私を正面から見つめた。つられて立ち止まる私の目をじっと見て、彼は、はっきりと答えた。

『そうじゃなくて、友達はお終いにしたいんだ。俺の彼女になって欲しい』

今まで一度も見たことの無いような、真剣な表情の彼から、目が離せなかった。言葉より先に、一筋の涙が、私の頬を伝う。何か答えなくちゃ、そう思うのに、言葉が口をついて出てこない。

言葉の代わりに、一度こくりと頷いた。それが今、私が彼に出来る精一杯の返事だった。彼はそれを確認すると、良かった、と嬉しそうに言って、きつく私を抱き締めた。

『最初から、こうしておけば良かった』
『私も、そう思う』

そして二人で顔を見合わせて、大声で笑った。不器用な私たちの、遠回りな恋。それでもこうして彼と一緒に居られるのなら、それも悪くないと思えた。

『なあ、このまま、何処か行こうか』
『嫌だよ。怒られたくないから、放課後ね』
『本当、意外と真面目だよな』

彼はそう言って笑うと、私の身体から離れ、じゃあ行こうか、と手を差し出してくれた。私はその手を取り、彼と共に歩き出した。 “いつまでもこの幸せが続きますように”と願いながら──……。



昼休み、再び友人から食事の誘いを受ける。中庭のベンチに座り、二人で少し冷たい風に吹かれた。この景色とも、あと数週間でお別れだと思い、寂しさを覚えた。
そんなことを考えながら校舎の隙間から見える青空を眺めていると、友人が口を開いた。

『ねえ、本当は付き合ってるんでしょ?』

彼女は、にっこりといたずらな笑みを浮かべて私に聞いた。

『うん、実は……』

私は少し気恥しく思いながらも、そう答えた。友人は笑うと、やっぱりね、と呟く。頬が熱くなるのを感じる。私たちはお互いに、顔を見合わせて笑った。









* * *

『全然隠せてなかったよ』

『そう、だよね……』








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