――暑い。暑い。熱い!
照り付ける陽射しに煩い蝉の声。
流れる汗があまりにも不快過ぎて、だらし無いと分かってはいるものの、繋ぎを上半身だけ脱ぎ、首からぶら下げたタオルで汗を拭う。
けれども涼しかったのは一瞬だけ。直ぐさまじわりとと汗が浮き出て、黒地のタンクトップがべたりと肌に張り付いて更に不快だった。今すぐにでもタンクトップすら脱ぎたくなったが、生憎外だ。露出狂としてハリスに連行されるのは流石に御免だった。
「お、グレイじゃん!」
「あ゛?」
名前を呼ばれ、無意識に渇いた声を出しながら振り返れば、より一層暑くなった気がした。
「カイ!」
「よう!また夏がや、」
「暑苦しいと思ったらお前が来る季節かよ……」
カイの言葉を遮って溜息混じり言えば、カイも溜息を零し肩を落としていた。
流石にその姿を見て失礼だったかと少し反省する。こんな事言ったけど、俺とカイは仲良いからな。久しぶりと何事も無かったかのように話し掛ければ、カイは笑顔で久しぶりと返してくれる。ああは言ったが素直にカイとの再会は嬉しかった。
「今から仕事?」
「ああ。まあな」
「まだこってり絞られてんの?」
「うるせえ」
そう言って笑い合うのも何だか懐かしい。
また夏が来たのか……。そう改めて黒いカイを見ながら実感した。
「カイはこっち来てるけど何か用事でもあるのか?」
「ああ、俺はちょっと挨拶回り」
「ふーん。まあ果樹園には顔出すなよ」
そう言えばカイは苦笑いを零した。こういう所で律儀な奴だから、毎年顔出してはデュークさんの機嫌が悪くなるんだ。あとは養鶏場の事を思うと嫌気がさす。今年も恐らく夜の宿屋は修羅場と化すんだろう。
そんな事を思って歩いていたら、カイがふと足を止める。気になってカイの顔を見れば満面の笑みで目の前を見つめていて、俺も吊られるようにカイの視線の先を辿る。そこには同じく満面の笑みで手を振る金髪が居て、ああ成る程なと足を止めた原因に納得した。
「クレア!」
「カイー!」
走って来るクレアに両手を広げたカイ。まさかと顔を引き攣らせたら、案の定目の前には抱擁する二人の姿。このクソ暑いのに、だ。
「うげーっ!やめろ!暑苦しい!」
見てるこっちが暑苦しくなるってのに、不適に笑ったカイはさらに腕の力を強めた。それにしめた!と言わんばかりの顔をして便乗するクレア。なんでこいつら平気なんだ。
「なんだ?グレイも抱きしめてやろうか?」
「ふざけるな!お前ら離れろ!もしくは俺の前で抱き着くな!」
「遠慮しなくていいのに。さあ、グレイ。おいで」
「近付くなーっ!」
俺の入るスペースを作り、くっついたまま手を広げ近付く二人に一層暑苦しさが増す。
大声を出して逃げる俺に、鍛冶屋からじいさんが顔を出して怒鳴り声を上げたのは言うまでもない。
鬱陶しい体温
(頼むから俺から離れろ!)