それでは二人に祝福あれ | ナノ



「おはよう。ちゃんと起きれたんだね」

「あ、クリフ!早起きしたなら起こしてくれてもいいだろ!」

「そんな事したら面白くないじゃないか。クレアさんに怒られるグレイを期待してたんだけどね。まあ、今さっき別の意味で怒られてたみたいだけど」

爽やかな笑顔を浮かべやってきたクリフは相変わらず悪趣味だった。言ってる事と表情が噛み合ってない。
しかもさっきのやり取り見てたのか……。
たった今クレアから足退けろとキレられたのを思い出し、俺の顔は引き攣った。

二人並んで見つめる先は今日の主役達の舞う姿。やはり張り切ってただけあってカレンは誰よりも目立ってる。一方クレアはと言うと、しっかり踊ってはいるものの何処か顔が緊張している様に見えた。あいつのあんな顔、珍しいな。なんだか今日はクレアの貴重な場面を沢山見た気がする。

「クレアさん可愛いね」

「ああ。……え!?ち、違う!可愛くなんかない!」

「はははっ!相変わらず素直じゃないなあ」

面白いけどたまに見てて苛つくよと笑顔で言ったクリフはかなり恐ろしかった。だめだ、こいつには一生勝てない。

「でも、素直じゃないのがグレイだけじゃないから面倒なんだよね」

「え?」

「いや、何でもない。もう少しこのままの方が僕は楽しいから」

そう言って微笑んだクリフが、さっぱりわからなかった。
それから、クリフはもう何も言わない。黙って微笑んだまま、また視線は真っ直ぐ前に向いていたから、俺もこれ以上追求するのは止めておいた。



「お疲れー!クレア」

「……おつかれー」

「楽しかったわね」

「ええ、カレンは凄く楽しそうだったわ」

漸く終わりを迎えたクレア達は、それぞれ達成感のある顔をしてみたり、楽しそうに微笑んでみたりしていた。(クレアは例外みたいで肩の荷が降りたのか疲れきった顔をしている)
勿論、今日一番楽しみにしていただろうカレンは、誰よりも満足感一杯の様で、まだ楽しそうにステップを踏んでいる。(そんなカレンを見つめる視線が暑苦しい奴が一人居るが敢えて触れない事にしておこう)

「やあ、二人とも。お疲れ様」

そんな二人に声を掛けたのは暫く口を開かなかったクリフだ。機嫌の良いカレンは手を振って返事をしているが、クレアは手を挙げるのが精一杯らしい。

「疲れたの?クレアさん」

「うん……慣れない事続きで疲れきっちゃった」

「でもクレアさん凄く可愛かったよ」

「!!」

うわー、こいつキザすぎだろ。耳元でそんな事囁くなんて何なんだこいつ。そんな事するもんだから耳まで真っ赤にしてクレア固まってるじゃないか。……こいつの反応も何なんだ。俺と居るときは一度も見た事ないけど。

「あ、あ、ありが、とう」

珍しくしおらしいクレアに少し苛立ちを覚える。俺にはすぐ噛み付く癖に、他の奴にはあっさり礼なんか言いやがって。
途端力が入って眉間に皴が寄ったのに気付いたのか、クリフは厭らしく笑った。

「グレイ、この後クレアさんと何処行くの?」

「えー、私もう疲れたから帰りたいんだけど」

だってさクリフ。
あからさまに嫌そうな顔をしたクレアは早くと言わんばかりに俺の服を引っ張ってきた。
また……だ。変な緊張感がまた押し寄せてくる。

「ダメよ。この後何処かへ行くのが女神祭の王道なんじゃない。クレア牧場、牧場って仕事ばっかりなんだからたまには息抜きしなきゃ、ね?」

「いや、今の私には家に帰ってゆっくりする方が息抜き、」

「ね?」

「……ハイ」

俺はカレンを尊敬した。あのクレアを有無を言わさず降伏させるなんて、と。
クリフだけじゃなくカレンにも絶対勝てないだろうな。そんな情けない事を思う俺は、自分も有無を言わずカレンのペースに巻き込まれてる事には気づくはずもなかった。

これ以上長引くのが辛かったのか、クレアは俺の腕を引っ張って歩き出す。後ろで微笑み手を振るカレンは、友人と言うよりはクレアを案じる姉の様に見えた。(その隣のクリフも微笑んではいるものの何か嫌なオーラが滲み出ている)

広場を後にしたクレアは何も言わない。何と無く気まずい雰囲気が流れるがここで上手い言葉が出ないのが俺だった。多分今口を開いても憎まれ口しか出ないだろう。生憎俺はクリフみたいにお世辞を言えるわけでもないし、ましてやカイの様に女を口説く様な真似なんか上手くこなせた事が無い。そんな俺がこの空気をどうする事も出来ないのは仕方ないだろう。だからただこいつの歩幅に合わせて歩く事しか出来なかった。

「疲れた」

沈黙をやぶったのは、勿論ぽつりと独り言の様に呟いたクレアだった。こいつ、ホントに色気も何も無いなと呆れた瞬間だった。

肩に、重みが、かかる。

はっ、として見れば、今にも溜息をつきそうな顔をしてるクレア。肩の重みの正体は、クレアがもたれ掛かっているからなのは見てすぐにわかった。

何を動揺してんだ、俺は。こいつが飛び付いてきたり、殴ったり、触れてきたりするのは日常茶飯事じゃないか。大体たった今色気無いと思ったばかりなのに。

鼻を掠める甘い匂いに、目眩すら覚える。

なんとも言えぬ感情に苛立ちながらも、肩の重みを振り払うことも出来ずに、俺はひたすら歩き続けた。







これには理由があるんです!
(何かの病気だよ、きっと!)



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