それでは二人に祝福あれ | ナノ



やっべえ、寝坊した!

時刻は午前9時30分。
現在遠回りをして全力疾走で図書館の前を通過中。(賑わい出した広場なんか横切れるわけねぇって!)

クリフもほんとつれない奴だ。早く起きたなら起こしてくれたっていいのに。
クレア、怒ってるだろうなあ。この後の面倒な事を思い浮かべれば溜息しか出なかった。

漸く見えてきた牧場に、俺は慌ててクレアを探す。俺に気付いたクレアの愛犬が走り寄って来るが生憎今日は構ってられないんだ。ごめんな
牧場にクレアの姿はなかった。もしかして、先に行ったとか?どうしよう、カレンにまくし立てられるのはマジで勘弁だぞ……!

慌てた俺に、犬は家の前に走って座り込んで見せた。もしかして中にいるのか?ありがとうと頭をわしゃわしゃと撫でてやれば満足そうに犬は尻尾を振っていた。(今度美味いもん買ってきてやるからな)

緊張して手を握り、息を吐いて戸を叩く。が、中からは声すら聞こえない。
えっ?俺の勘違い?背中に流れる冷や汗に、カレンの怒り狂った顔が目に浮かんだ。

「もしかして寝坊して大遅刻したグレイ君?」

やっと聞こえた声に、君だなんて気持ち悪いなと出そうになった言葉を慌てて飲み込む。
代わりに「そうです。すいませんでした」と素直に謝ると、漸くクレアは戸を開けた。

「あ〜あ。もう来ないと思って今日はサボっちゃおうと思ったんだけどなぁ」

「かっ……、」

ちょっと待て!今俺は何を言おうとした!?
慌てて口を両手で塞いで言葉を飲み込む。何も思ってない。何も言おうとしてないんだからな!

「一人で何やってんのよ。早く行くわよ。ただでさえ誰かさんのせいで遅刻なんだから」

「悪かったよ。ったくほんとかわいく……」

あ、あれ?言葉が出ない。代わりに無意識にゴクリと喉が鳴る。
寝坊したせいか、今日は何時もの調子が出ないようだ。クソっ、言われっぱなしなんて気分悪い。

「はいはい、可愛くないのは分かったから、足動かして」

何時もなら噛み付いてくる筈のクレアだったが、今日はほんとに時間がないのか早々と歩きだした。俺の顔を掠める金色の髪を見つめながら、俺は慌てて歩き出す。

時刻は既に9時50分。
因みに祭が開催されるのは10時からだ。何故だかこの町の人間はお祭り好きな奴ばかりだから、きっと俺等をまだかまだかと首を長くして待ってるのだろう。そう思うと、自然と足速になっていく。

「ちょっと、グレイエスコートの意味分かってんの!?」

後ろから聞こえて来た声は少し怒ったような声で、俺は足を止めて振り返る。
あれ?あいつ何やってんだ。時間が無いって言うのに、クレアはちんたらと歩いている。

「お前、時間無いって自分が言っただろうが!」

「分かってるわよ!」

漸く俺に追い付いたクレアは、俺を見上げて睨んでくる。いや、これ睨んでるのか?交わる視線に何故か鼓動が速くなってる自分に動揺を隠せない。

「スカートにヒールだなんて久しぶりだから、あんまり早く歩けないの」

だー!俺をそんな目で見つめるんじゃねえ!ついでにそんな薄いピンク色した唇で話すんじゃねえ!

「わ、分かったから!ほ、ほら、手、手!」

「何しどろもどろになってるのよ。何時にもまして変なグレイ」

珍しく恐々とした目で俺を見ると、クレアは恐る恐る手を俺の腕に絡めて来た。あー!やっぱり今すぐ離れろ!どうしてだか今日はクレアに触られると何かがやばい。けど言い合いしてる時間はない。もやもやとした感情をどうする事も出来ずに、俺はゆっくりと再度歩きだした。



「クレア!遅かったじゃない!もう待ちくたびれたわよ」

「ごめんね、カレン。もう、文句ならこいつに言ってよ!今日仕事休みになったことに浮かれて寝坊したんだから!」

「だ、だから悪かったって何度も言ってるだろ!」

広場に着いた途端、嫌な奴に会ってしまった。やべぇ、怒られるとつい体が強張ってしまう。
が、しかし、カレンは何故か笑顔で「クレアを連れてきてくれてありがとう」と俺に礼を言ったのだ。拍子抜けして肩から力が抜けてしまう。

「じゃ、私先に行ってるから!クレアもすぐおいでよ!」

「うん!分かった!」

そう言って手を振りカレンは走り去って行く。そこには既にクレア以外の女の子が揃っていて、やはり遅刻だったんだなと改めて思い知らされた。

「うわ、皆気合い入ってるね。可愛いなぁ」

「ん?あ、ああそうだな」

「どれどれ。おっ、マリーなんかどう?眼鏡外してピンクのふわふわの衣装を身に纏った姿なんて、いつもとのギャップが堪らないわね」

「へぇ……確かに。あんな格好もいけるんだな」

「うわっ、ヤラシイ。マリーにグレイには気をつけろって忠告しとこう」

クレアに言われて初めて他の女をまじまじと見たって言うのにこの言い草だ。走り去ろうとしたクレアの腕を慌てて掴めば、また胸が大きく高鳴った。なんだ、俺ほんとにマリーに興奮してんのか?そうは思うものの視線は何故かクレアから離れない。

「グレイ、」

俺の名前を呼んで、クレアは振り返る。こっちを見る視線に堪えられず俺の瞳は揺らぎだす。「なんだよ」その一言を口にするだけが今の俺には精一杯だった。
それを聞いたクレアの眉間には、今日の格好に不釣り合いな皺が刻まれていく。俺が腕を掴んでるから悪いのか?そっと腕を解放してやるが、クレアは相変わらず眉間に皺を寄せて俺を見ていた。ほんとに、何なんだよ。







スカート踏んでるから
(さっさと足退けなさいよ)



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