「やっ!グレイ!」
「グフッ……!!」
ガツガツと昼食を実にお行儀悪く食べる背中を見つけた私は、すかさずその背中に声をかけた。(勿論序でに背を叩くのも忘れない)
するとがっついていた為か、グレイは食べていた物を噴出した上に喉に詰まらせゲホゲホと咳き込み出す。あーあ、汚いなあ。行儀悪いからだよと思いながらも不適に吊り上がる私の口端。あ、ダメだ。今は笑うとこじゃないのに。
「あ、大丈夫?」
一応形だけは謝っておいた。あと、一応水も差し出してみた。
私から水を受け取ったグレイはグビグビと喉を鳴らして水を流し込む。これが酒だったら良い飲みっぷりだったのになあとか思いながら、彼の隣の席に腰掛けると、グレイは物凄い顔をして私を睨んできた。
普通の女の子ならここで怯えて目を逸らすのが一般的なんだろうけど、私は違う。そんな睨み、物ともせずに敢えてにこりと微笑むのだ。
「お前なー!人が飯食ってる最中にいきなり背後を襲うな!」
「そんな大袈裟な。ただ背中叩いただけじゃない。それに、グレイ行儀悪すぎるわよ。あーあ、こんなとこにも飛び散ってる」
「それはお前のせいだろうが!」
あ、なんだコレさっきグレイが噴出したやつか。なんと無く嫌な気分になったので、手をグレイの服で拭いておいた。(何か文句言ってるようだけど知らない)
聞く耳持たない私に諦めがついたのか、グレイは再び食事を再開する。少しは私の話を気にしたのか、グレイは先程より行儀良く食べているようだった。
「あ、ねえ!イチゴ頂戴」
黙って観察していた私の目に留まったのは、デザートのイチゴ。「お前いつでも食えるだろうが」と一蹴されたけど、私は今食べたい気分なんだ。お願い!と期待に満ち溢れた目で見つめてみる。
「ったく。しょうがねえな」
ホラ、とイチゴを摘んだグレイはそれを私の口の前へと運ぶ。目の前には大きなイチゴ。わあ、と盛り上がった私は満面の笑みで口を大きく開けるのだが、
「ってやるかよ!これは俺の」
パクリ。そのイチゴはUターンしてグレイの口の中へと消えていく。
目の前にたった今まであったのに。あとちょっとで私の口に入る予定だったのに……!
憎たらしくもグレイは「うまい!」と私の目の前で言ってのける。キッと怒りで目が吊り上っていくのを感じた。
そのままギロリと今度は私が睨んでやれば、グレイはしてやったりとニヤリと笑う。
悔しい!グレイの癖に、グレイの癖に……!
「はい、クレアさん。あーん」
その時、頭上から降って来た声に咄嗟に反応する口。先程より控えめに口を開けば、コロリと口の中で何かが転がった。
噛み潰せば口内に広がる甘味。それは紛れも無く今私が求めていた物で、顔には自然と笑みが浮かぶ。
「美味しい……!」
「僕はランちゃんから多めに貰ったから。このイチゴ、クレアさんの牧場のイチゴだって」
だから美味しいんだね、と微笑むのはクリフだった。イチゴをくれただけじゃなく、こんな嬉しい言葉までくれるなんて……。思わず胸がトキメキそうになったのは秘密。
「私の牧場のイチゴだったのね。ふーん、そうかー!美味かったんだよねー」
ビクリと肩を震わすグレイに、思わず厭な笑みが浮かぶ。私の耳には確実に聞こえたわよ。「うまい」って憎たらしいグレイの声が。
「い、イチゴはたまたま美味かったんだよ!」
「はいそんなグダグダな負け惜しみ聞こえません」
悔しそうにフォークを握り締めたまま震えるグレイに、幾分気が晴れた気がした。止めに「そんな事言うんだったらじゃがいもあげない!」と豪語すると、今にも土下座しそうな勢いで謝るグレイ。(どんだけ好きなのよ)
「ははは、相変わらず仲良いね」
そんな私達を見たクリフは声を上げて笑い、こんな事を言い出したのだ。
途端言動を中断した私達は、すかさずそんなクリフに顔を向ける。
「「なかよくない!」」
「ほら、息もピッタリだ」
お腹痛いと更に笑い出すクリフに、何とも言えない表情で顔を合わせる私達。
仲が良く見えるのは多分気付けば一緒にいるからだろうか。こいつとの"腐れ縁"に思わず溜息が零れた。
くっつけばいいのに
(腐れ縁とか言うけど傍から見ると好きで一緒にいる様にしか見えないんだよ)