それでは二人に祝福あれ | ナノ



いやー食った食った!
悔しいけどクレアの飯は美味かった。
あいつは感謝祭ですら雑貨屋で買っただけのチョコをそのまま渡すようような奴だったから、俺はてっきり料理できないと決め込んでいた。(料理祭では見学すら見たことないしな)

腹も満たされたし、もう一踏ん張りしようかな。
体を伸ばし「よしっ!」と自分に喝を入れた俺だったが、ふと突き刺さるような視線を感じ、なんだか体がむず痒くなる。
その正体はもちろんクレアで、何か言いたげな表情で俺を見つめていた。

「ん?どうかしたか?」

「いやさ、まさかとは思うけど……水車小屋で寝泊りするつもり?」

まさかもなにもそのつもりだ。そう告げたら、クレアは明らさまに嫌な顔をした。
何だよ……貸してくれるって言ったじゃんか。今更ダメだと言われても、正直どこも行き先ないし困るんだけど。

「過ごしやすい季節だけど、流石に夜は冷えるわよ?」

「分かってるよ。でも大丈夫、俺体強いから」

「なんちゃらは風邪引かないのは知ってるけどさ」

そう言ってニヤリと笑うクレアを見て思い出した。
そうだった、こいつはこんな奴だったよ。今日はやけに優しかったから、俺は不覚にもすっかり忘れてたようだ。
ムッとした俺を見て満足したのか、クレアは席を立ち部屋の奥へと向かう。
そしてドアの前で足をとめ、そのまま手招きし始めた。

なんだ?不思議に思いながら、取り敢えず呼ばれるがままクレアの元へ向かってみる。

「じゃーん」

言葉とは裏腹に感情のこもってない声を出しながら、クレアは徐ろにドアを開く。
不審に思いながら中を覗くとそこは広い部屋。そして広いベッドが俺の目に飛び込んで来たのだ。

「ここで寝ればいいじゃない」

「は?」

そのセリフに固まる俺。
もう一度クレアの顔を見るが、至って真面目な顔で言っていた。
いや、でもな……

「お前はどうすんだよ」

「ここで寝るに決まってるじゃない。私の家よ?」

漸く表情を崩したかと思えば、現れたのは不快な表情だった。

いやいやいや!!!
確かにこのベッドは広いし俺たち二人が一緒に……っていや、俺は何を考えてるんだ!!

バクバクと煩い心臓にイラっとするが、これは俺のせいじゃない。
コイツ俺が男なの忘れてるんじゃなかろうか。いや、俺の事男として見てないっていうのが正解だ多分。
しかしだな!例えそうだとしても流石に一緒に寝るのは非常にまずい。
もう一度言う。非常ににまずい!

「ク、ク、クレア!?」

「な、何よ」

俺の様子に明らかに狼狽えるクレア。しかし今の俺にクレアの様子を伺ってどうこうする余裕はない。情けない事に自分を落ち着かせるのに精一杯だった。
一体何を考えてるんだクレアは。俺の為を思って言ってくれてるんだろうが、それでもここは男としてちゃんと言わなければならない。
そんな変な使命感を感じ、俺は意を決してクレアの肩を掴む。
勿論、突然俺に詰め寄られたクレアは驚きの余り目を丸くしていた。

「あのなク、クレア。お前の気持ちはありがたく受け取っとくよ。でもな、流石にその……いっ、一緒に同じベッドに寝るのはその……だな」

言えない。続きの言葉が出てこない。代わりにカッと顔が熱くなるのは自分でよく分かった。

恐る恐るクレアの顔を見てみる。(なるべく顔を見ない様に必死にクレアの頭に向かって話しかけていた)そこには白けた顔をし俺を軽蔑の眼差しで睨みつけるクレアの顔があった。

「誰が一緒に寝るのよ。バカじゃないの!奥見なさいよ、奥!!」

「へっ!?」

クレアに言われるがまま、部屋の奥を見てみるとそこには同じ大きさのベッドがもう一つあった。
あーーーーー!!!よかったーーーーー!!とホッと胸を撫で下ろしたのも束の間。
ただの俺の勘違いじゃないかコレ……!!相当恥ずかしい所を見られたという事を漸く俺は理解した。
チラリと再びクレアの顔を見るが、相変わらず軽蔑の眼差しで。それはもうゴミを見るかの様に冷たい瞳でした。

「あ、あははは!!じゃあ俺はもうひと頑張りしてきます!!」

これ以上この場にいるのは耐えられなかった。戦線離脱!俺は尻尾を巻いてクレアの家を後にしたのだ。



* * *



キリのいい所まで作業が終わった俺は、身体を伸ばしながら大きな欠伸をする。
チラリと腕時計を見ると、時刻は深夜1時を回っていた。そりゃ眠くなるはずだ。

とりあえず着替えを済ませて就寝の準備を整える。
水車小屋を出て目指すはクレアの家。
しかし、先程の一件が頭にあり、気恥ずかしさからか足が非常に重たい。
まあ、距離が短いからすぐついちまったんだけれども。
家の前の犬小屋では犬が気持ちよさそうに寝ていた。お前の主人も寝てるといいんだけどな。そう思いながらドアをゆっくり開けてみる。

部屋の中は俺の思惑通り真っ暗だ。心の中でガッツポーズして、なるべく足音を立てないように寝室の前へ移動する。
無意味にドギマギする心臓の音が煩くて敵わない。
ドアノブに触れた俺の手は、まるで他人の物のように動く気配はなかった。

ふぅ……と細く息を吐く。ちっとも楽になった気はしないが、このままじゃ埒があかない事だけはしっかりと理解できた。

漸く意を決した頃にはきっと数分が経過していただろう。
ゆっくり開けたつもりだがキィ…と小さな音がなり、身体中に冷や汗が滲むのを感じる。

すっかり暗闇に慣れた瞳に飛び込むのはスゥスゥと静かに寝息を立てるクレアの姿。
体が思わず固まって、いやでも彼女の顔を凝視してしまう。

……ほんと、黙ってれば美人の部類に入るのにな。

浮かんだのはクレアと出会った頃の情景。
そういえば初めて顔を見たときは綺麗な人だと思ったんだ。最初も黙ってたからな。
それがこんなに小馬鹿にしてきたり、からかったり、何かと煩い奴だったなんて。
けれど、新米同士だったのもあるが、俺の中で非常に日々に活力を与えられていたのだろう。
クレアなりにずっと応援してくれてたのだ。今だってそう。

不思議と緊張がほぐれ、俺は一人笑いを零し空いたベッドへ向かう。
靴を脱ぎ布団を被れば、太陽のいい匂いに包まれた。

「ありがとな、クレア」

全て終わったら、必ず面と向かって伝えよう。
そう決心をして俺は瞼をそっと閉じた。






友達よりも対等な関係
(宿屋のベッドより寝心地が良くてちょっと悔しい)



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