それでは二人に祝福あれ | ナノ



忙しい。ほんとに忙しい。
調子に乗って今年は畑を広げすぎたなぁ…なんてちょっと今更後悔している秋のまだ序盤。

一面に広がる緑の葉は、まだ少しばかり残る夏の気温を受けてか、日に日に大きく育っていた。
この時期ばかりは交代でコロボックル総動員!
じゃないと、とても一人じゃやってられない。

「ワン!」

気付けばもう夕暮れ。
タイミングを見計らったかのように、我が愛犬がひと吠え。
その声に顔を向ければ、彼は物言いたげにチラリとポストを見つめる。

「そういえば、ポストの存在忘れてたわ…」

秋に入って一度も見てないんじゃないかしら?
しまったと思いながら、恐らく手紙が溜まってるであろう真っ赤なポストに駆け寄る。

開けばバサバサ落ちてくる、とまではいかないが、やはりポストにはチラシや手紙が溜まっていた。

一枚一枚目を通せば、もう終わったであろう祭りの案内や、SALEのチラシ、通販のチラシ、様々なものが期限を過ぎて出てくる出てくる。

「ん?」

そんななか、スタイリッシュで何故か目に止まる便箋が一つ。
他の手紙をポストに押し込んで、おもむろにその便箋の封を開けた。

中の手紙を取り出せば、ふんわりと香水の香り。
すごく懐かしく、寂しく感じるこの香りを、私はよく知っている。

「カイだ……」

そう確信を得た瞬間、彼に秋の始めに告げられた言葉を思い出す。

「来年はクレアを迎えに来るから、だから、俺と、結婚して下さい」

彼の真剣な眼差し。そしてどこか切なげな瞳を思い浮かべ、胸がぎゅっと締め付けられる感覚に陥る。

ああ〜もう!手紙、読み難くなったじゃない…
なんて思いながらとりあえず深呼吸してみた。
のに、今度は鼓動がやけに煩い。もうどうしようもない。完全にお手上げだ。

こうなりゃヤケだと、私は勢いよく二つ折りの便箋を開く。
飛び込んできた『愛しのクレアへ』の文字に大きく胸が高鳴った。
……よくよく考えたらこれ、毎年同じ書き出しだった。

『愛しのクレアへ
そろそろ俺が恋しい頃だと思ったんで手紙だしました。
今俺が居る街はミネラルタウンとは真逆というか……まあ、ずいぶんと華やかな街で、相変わらず夏を満喫してます。
飯も美味いし、バカンスしにきた水着のお姉ちゃんもいっぱいいるしで、いやーやっぱ夏が一番だわマジで』

実にカイの楽しそうな姿が目に浮かぶ。
そして、相変わらずのカイに安堵したのか、私も気持ちに余裕ができたようだ。ここまで読んで吹き出してしまった。

早く続きが気になって、また手紙に目を通す。
しかし、次の言葉に私の胸はまたしてもドキリと音をたててしまった。

『けどな、やっぱどんなに飯が美味くてもクレアの作るパイナップルはないし、クレア程眩しい水着の姉ちゃんはいないし、俺の一番はクレアと過ごす夏なんだよ。今回改めて実感した。
恋しくなったのは俺の方でした。

グレイとはアレから元通りになった?
まあ俺が心配せずとも、お前らはまた笑いあってるんだろーけど。
2人がケタケタ笑って、んでハモって、怒って……それ見て俺が笑って……また来年そんな時間が過ごせるの、俺楽しみにしてるから。
また、来年。 カイ
PS.答えはその時に』

グレイか……。
カイの手紙を読んで、ふと彼の事を思い浮かべる。
カイの言う『元通り』というのがどんなものかは分からないけど、確かに、顔を合わせれば普通に喋って、笑って……うん、前みたいには楽しくやっている。

「あ、そう言えば!」

ビニールハウスのパイナップルが明日あたり出来そうだったな。これ、返事と共に送ってあげよう。

「あぁ、あと……」

その隣のじゃがいももソロソロ出来そうだった。二人の好物がこのタイミングで収穫時期だなんて、思わず笑いがこぼれてしまう。

「グレイにも会いに行こうかな」

じゃがいもあげる時だけは突っかかってこないし、本当に嬉しそうな顔するのよね。

明日、楽しみだな。
時季外れな作物と二人の友人を思い浮かべて、私は何故か幸せな気持ちだった。






秋の一幕
(うん、明日からまた頑張れそう)



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