なんか今年は長い夏だったなぁ。
充実した日々を思い出し、俺はのびのびと体を伸ばす。
まるで一仕事終えたかのような、達成感。やけに強張った体は、バキバキと悲鳴を漏らしてはいたが、聞こえないふりをした。
「あっ、見つけた!カイ!」
すっかり閉まった海の家に飛び込んで来たのは、グレイだった。
おお、いいところに。俺もグレイを探していたんだった。
「お前が何時もより遅いから、俺仕事抜けてきたんだからな!」
少し息を乱れさせたグレイは、睨みながらそう言った。
ちっとも怖くない。可愛いやつめと、つい顔がにやける。
「悪かったよ。そんなに俺がいないと寂しいの?」
「寂しいよ」
そしてこの即答。
ああ、これさっきもしたぞ。全くこいつらは……こんなとこでも息ピッタリ。
そして驚く程素直だ。
普段からそれなら遠回りしなくてもいいのにな。
思わず笑い声が漏れたせいか、グレイは顔をしかめて俺を見ていた。
悪いと一言添えて、もう一度笑う。
ほんとに、こいつら2人は……。
「人が寂しがってるのに笑うのかよ」
「いや、愛されてるなって幸せに思うとな、つい」
「今年は色々迷惑かけたしな。最後の挨拶くらいちゃんとしたかったんだよ!」
そう言って、グレイは照れた。照れながら手まで差し出してきた。
握手の意であるそれを見たら、自然と笑みも消える。
俺のせいで、こいつら仲違いさせたんだよな。
クリフは気にするなと言ったが、そんな訳には行かなかった。いや、今もそんな訳には行かないと思ってる。
「なあ、グレイ」
「なんだよ」
「俺、お前好きだよ」
友達になれて良かったと続けたかったが、その前にあいつの顔が青ざめたから、言うタイミング失っちまった。
気持ち悪い勘違いを吹き飛ばすため、咳払いをひとつ。
ちげーよと、漸く否定の言葉が出て、どこかグレイがホッとした顔を見せた。
「クレアに結婚してくれって言った」
俺に手を伸ばしたまま固まるグレイ。
この反応は想定の範囲内。
「本当かよ?お前、中々な物好きだな」
「あれ?」
これは想定の範囲外だ。
けろっとしたグレイに逆に驚いた。
おかしいな。こいつ俺とクレアが付き合ってると勘違いして嫉妬したんじゃなかったっけ?
俺の読みが違ったのか?
「で、答えは?」
「もらってねーよ」
「は?」
「来年の夏までに考えてくれって言ってきた」
なんだよそれ、とグレイは呟いた。
いやいや、俺からしたらお前が「なんだよそれ」なんだが。
そう思いながら、ずっと放置されていたグレイの手ををガッチリと握り返す。
そして奴の瞳をじっと見据えた。
「来年の夏までだ、グレイ」
「は?なにがだよ」
「それまでにクレアの横に"仲のいいお友達"しかいないようだったら、俺は遠慮なく掻っ攫ってくからな」
一瞬ポカンとした顔を浮かべたグレイ。
しかし、その直後顔が強張った。けど、これも無意識なんだろうな。たぶん。
じゃあな、とグレイに別れを告げる。
俺も随分な夏の締めくくりをしたもんだ。
しかし、やけにスッキリした。
自分の気持ちにも、整理がついた。
今日は友人2人の未来を祝して、ワイン飲みながら次の町を目指すことにしよう。
愛もとける夏の日
(じゃあ、また来年)