ジリジリした日差しの中、クレアはもう実らない夏の作物を刈り取っていた。
まだ夏の暑さを残してはいるものの、今日はカレンダーをめくる日。
そう、季節は秋へと変わったのだ。
「今年もお世話になりました」
最後のパイナップルを刈り取り、クレアは何もなくなった畑に深々と頭を下げる。
まっさらのそれはすごくさみしくもあるが、また秋の野菜でいっぱいになることを思えば、心が踊った。
忙しくなるが、一番の稼ぎ時。
今年は去年より更に畑の面積を増やそうかなど、牧場主は夢を抱いた。
「すっかりさみしくなったなぁー」
いきなり背後から声が聞こえたものだから、クレアはビクリと全身を震わせた。
その様子を見て、「悪い」とちっとも思ってなさそうな表情で陽に焼けた男が言う。
「カイ……!」
作物だけじゃない。この男もまた、この町を去るのだ。
例年通り挨拶に来て、例年通り去って行く。
分かってはいたものの、仲のいい友人がいなくなるのはとても寂しかった。
「よかったよ、この街にもそんな寂しそうな顔で送り出してくれる人が増えて」
ぽんぽんとクレアの頭に手を置き、カイはニコリと笑う。
「また、来年まで会えないのね」
「なに?寂しいの?」
ニヤリといたずらっぽく笑うカイ。
茶化すようなその態度も、少しでも明るく去るための彼なりの気遣いだ。
「寂しいよ」
それなのに、クレアは至って真面目にそう返したのだ。
不意を突かれ、ドクンと心臓が飛び跳ねる。
まさかそんな返しをされるなんて。思っても見なかったカイは、ぐしゃりと顔を歪めた。
「どうしたの?」
「……いや」
ちょっとまって。そう言う変わりに、カイは俯き彼女の前に手を突き出し合図した。
その仕草で察したクレアは、彼の意図通り俯いたカイを不思議に思いながらもじっと待つ。
彼女から見えないカイの顔は、とても、とても悲しみに満ちていた。
情けないと思いながらも、気を緩めたら涙を流しそうだった。必死にそれを堪え、自分を奮い立たせる。
深く、深呼吸――
息を吐いたら、色々なことに決別できた様な気がした。
「俺も、寂しいよ。クレア」
「うん……」
「クレアに会えないのが、一緒に居れないのが一番苦しい」
その台詞に、クレアははっとする。
やけに真剣な眼差しの彼に、思わず体が硬直した。
一瞬、一瞬の間が、やけに長く感じる。
それでも2人は、その緊張感の中ただ待った。
クレアはカイの言葉を。
カイは、自分の覚悟を――
「だから、来年からはずっとそばにいて欲しい」
「えっ……」
「来年はクレアを迎えに来るから、だから、俺と、」
「結婚して下さい」
馬鹿みたいに、君の幸せを願ってる
(きっと来年の夏には、)