「おはよう!クレア!」
「わっ、何!?」
あーあ、こりゃ重症だわ。
目の前の餌入れから溢れ出たドッグフードを見て、苦笑いせずにはいられない。
これ、わんこ食い難そうだぞ。高く積まれたドッグフードのタワーを壊さないように恐る恐るクレアの愛犬はそれを食べている。
「ああ、ごめんね!」
慌ててタワーのてっぺんを崩し、食べやすい量に減らしてやるクレア。漸く安心したのか、わんこはハグハグと音をたて食い始めた。
「そう言えば珍しいわね。こんな時間にカイが訪ねてくるなんて」
「まあな。誰かに予約されちゃ困るから」
「予約?」
キョトンと、クレアが不思議そうに首をかしげる。
そう。予約。俺はニヤリと笑って見せる。
「もうすぐ花火大会だろ?」
「ああ、もうそんな時期ね」
ほんとクレアは町の祭りに興味が薄い。トマト大会とか、鳥祭りだとかには張り切って前準備するのにな。
花火大会は若い男女にとっちゃロマンティックなイベントだろうに。
少し呆れる反面、どこか安堵している自分に自嘲する。
「実はな、とっておきの場所があるんだよ」
「とっておき?」
そりゃもうとびきりの!そう興奮ぎみに盛り上げて、ウインクを一つ。
これには流石のクレアも食い付いたようで、「何処!?」と目を輝かせて子供のように聞いてきた。
よし、もう一押し。確信を得た俺は、ビシッとマザーズヒル方面を指差す。
「あそこ!」
俺の指の方向を見て、クレアは首をかしげた。
一拍おいて何となく分かったのか、振り向いたクレアは目を丸くして疑問符を浮かべている。
「山頂?あそこ見えるの?」
「見えるもなんも凄いぞ〜!凄さは見てのお楽しみだけどな」
「行きたい!」
よっしゃ!食い付いた!
これでこっちは一安心。
俺は胸を撫で下ろす。
あとはあっちがうまく行くといいんだが――
面倒臭そうな顔を浮かべていたアイツを思い出して、顔がひきつるのが自分でもよく分かった。
***
「やあ。グレイ」
「おわっ!な、クリフ!!」
全く……。ここが何処だかわかってんのかな。
チラチラこちらを見てくるマリーちゃんになんで僕が頭を下げなくちゃいけないんだろうか。本当腹立つなぁ。
「め、珍しいな……」
「僕だって見習いの身だからね。勉強くらいしにくるさ。まあ君とちがって僕は優秀だけれどね」
チクリと嫌みを溢せば歪むグレイの顔。あー少しスッキリした。彼の反応を見て漸く僕は笑顔を浮かべる。
「ああ、今度の花火大会だけど、勿論予定空いてるよね?」
「勿論て……あのな、俺だって予定の一つや二つ――」
「空いてるに決まってるよね?」
この僕が誘ってるんだから断るなんて事は許さないよ。僕だって本当はグレイなんかと見たくないさ。
「ね?」とさらに念押しニコリと笑って見せたら、グレイはたじろいだ。あぁ面倒臭いなぁ。早く頷けばいいのに。
「わ、わかったよ!空いてるよ!」
「早くそう言えばいいんだよ」
漸く折れたグレイにため息をつきたくなるが、僕はそれを堪え葡萄酒についての本を手に取る。
本当はグレイを誘うのが目的だったから本なんかどうでも良いんだけどね。見習いの身っていうのは本当だから、折角だし勉強していこうと思って。
「ああ、待ち合わせは君の部屋でいいよ。面倒だから。時間も18時くらいね」
「お前……誘っといて、えらい投げ槍だな」
だってどうでも良いんだもん、とは言えなかった。
本音を言うと、きっと僕なりに心配してるんだと思う。(何だか他人事みたいに言ってるけれど)
このままの二人じゃ僕も調子でないし、何しろカイが一番気まずいだろうから。
「……やっぱり僕もお人好しかも」
「ん?何か言ったか?」
「何でもないよ。あ、グレイ。花火大会の後なんか奢ってよね」
「ちょ、何でだよ!」
ごちゃごちゃ煩いグレイを無視して二階へと向かう。
ほんと、さっさと仲直りしてくれないかな。なんたってこの僕がここまでしてるんだから。
気に入らないから
(特に“グレイのせい”でペース乱されてる事がね)