それでは二人に祝福あれ | ナノ



「お兄さん。お隣り空いてますか?」

ぼうっと浜辺に一人座り込んで、日の沈むのを眺めていた夕日の綺麗な夕方。
完全に一人の世界に入り込んでいた俺を現実世界に引き戻したのは、笑顔のクレアだった。
咄嗟にもう一人ヤツを探してしまうのはもう癖のようなもの。勝手に頭が二人はセットのように認識してるからかもしれない。
しかし、あいつの姿は見えなかった。珍しいなと思いながら、どうぞ、お嬢さん、と隣に座るように促してみる。

「どうも、お兄さん」

クスリと微笑んだ彼女の顔はとても綺麗だった。片割れといる時のクレアは、専らツンとしていたり、悪戯っ子のように笑ってるのしか記憶に無いためか、かなり新鮮に思われる。ってことは、あいつはクレアのこんな一面を知らないのかも知れないな。勿体ないなと思う半面、少し優越感を覚え、つい口角を吊り上げてしまう。

「綺麗ね。一人で今までずっと見てたの?」

「なんだよ、一人じゃダメ?」

「カイはてっきり仕事終えたら女の子侍らせて楽しくやってると思ってたから」

そう言って笑う姿はいつものクレアだ。
なんだよ、俺そんなイメージなわけ?と肩を落としても、彼女は、うん!としっかり首を縦にふる。仕事後は大抵クレア達と飲んでるってのにこの言い草だもんなあ。からかってるのはわかるが、イメージとは恐ろしいもんだよ。本当。

「じゃイメージ通り今日はクレアと一夜を共にする事にするわ」

「あら、優しくしてね?」

その一言に吹き出せば、クレアも同じく吹き出す。二人の笑い声が響く海辺は、さっきまでの静寂がまるで嘘かのように感じられた。

それからたわいない話で盛り上がり、気が付きゃすっかり日は沈んでいた。
今日はやけに月が明るい日で、夜だというのに互いの顔がはっきり見えるくらい光が射している。浜辺で語り合う男女にこの絶景と言う実にロマンチックなこの光景。しかし、クレアはと言うと、ふぁ〜と緊張感の無い欠伸を零していた。

「結構付き合わせちゃったな。帰ろうか。送るよ」

「……もう少し、このまま」

どこか遠くを眺め、虚ろな瞳でそんな事を言われ、俺の中で"なにか"をせき止めていたものが一気に崩れかける。

咄嗟に彼女の腰辺りに伸びた手。その手を必死で制止するのは、やめろ!と言う悲痛な心の叫びからだった。

「なあ、クレア。そんな事男の前で言うって事がどんな事かわかって……」

トン……
肩に掛かった重みに、シャンプーの良い香り。それは俺の理性を麻痺させるには十分な要素だった。
それでも必死に理性を繋ぎ止めようとする訳は、友人の枠から出るのを恐れてるためか。或は――

「……クレア」

ゆっくり顔を近付けると共に、理性が段々薄れていくのを感じる。喧しいはずの心臓音や、波の心地好い音なんかとっくに耳に入らなくなっていた。
ただ、俺の耳に入るのは…

「すー……」

「……は?」

今すーって聞こえたよな。
はっきりと聞こえた、よな?

うっすら口を開いて、俺に身を任せたクレア。聞こえてきた寝息に唖然とした俺だが、同時にほっと息をつく。
そうだよな、欠伸してたもんな。このまま、って言うのも眠くて仕方なかったからだろう。なんとも彼女らしい理由を予想して、一人小さく声を上げて笑う。

「ったく、紛らわしい奴だよホント」

完全無防備なクレアの寝顔。そんな無垢な表情に一気に押し寄せる罪悪感。そしてこんな時に脳裏に浮かぶ親友に盛大な溜息が溢れ出る。
うごめく複雑な感情に、歪む顔。

躊躇いがちに伸びた手は、そっと彼女の肩を包み込み、切なく震えながらその肩を抱き寄せる。

伝わるクレアの温もりが、とても心地好くもあり、酷く、心を痛め付けた――






吐き出せない想い
(気付いちゃいけないって
わかってたはずなのに)



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