「一口ちょうだい!」
「いやだ」
「ケチ!」
「じゃ、お前の一口くれ」
「イヤ」
「どっちがケチだよ!」
海の家にて繰り広げられるいつもの低レベルな争いにカイはふと笑みを零した。相変わらずな二人に、これまた相変わらず静観に徹するクリフを見ると、ミネラルタウンにやってきたのだなと実感が湧いて来る。
「ほら、俺のやるから」
もう少し傍観するのも悪く無かったが、なんとなく邪魔したくなり、カイは一口メロン味のかき氷を掬うとクレアに差し出す。それを見て嬉しそうに口を開ける様はまるで子供のようだった。可愛いなと思いながらカイはそっと彼女の口にスプーンを入れる。口内に広がる求めていた味に、クレアは幸せそうな笑みを零した。
「ククッ……お前ら相変わらずだな」
漸く終焉を迎えたかき氷戦争。だったのだが、とうとう押さえ切れなくなったカイが口元を押さえながら笑いだした事により、再び彼等の顔色を変えてしまう。
彼の言葉に二人は口を揃えて言い返す。が、その内容はカイには届かず、ついにはカイはゲラゲラと笑い出した。それにつられてクリフまで声を上げ笑うものだから、いよいよ二人は困ったように顔を見合わせる。
「もう!二人とも何がそんなに可笑しいのよ」
「何がって、」
「お前らに決まってんじゃん!」
「意味わかんねぇ。見せもんじゃねえぞ」
「そうよ!グレイならともかく、私まで笑い者になるなんて」
「なんだよ、俺ならって」
そして再び始まる啀み合いに、カイとクリフは更に口角を吊り上げた。きっと放っておいたらいつまでも続けるだろう。そんなくだらない言い合いを、折角だからもうしばらく傍観しようと決め込んだその時、店のドアが開いた。
「あ、またやってるの?」
「おう!ポプリ!こっからが更に面白くなるぞ!」
「「面白くない!」」
口を揃えて言う二人に、忽ち起こる笑い声。顔を真っ赤にした二人に「息ピッタリね」とポプリが煽れば、彼等はぷいと顔を背けた。
「カイ、あっちで料理教えて」
「カイ、泳ぎに行こうぜ」
ほぼ同時に発せられた言葉に、ポプリはやっぱりと笑みを零す。
一方、二人に挟まれたカイは、いつの間にか両腕をそれぞれにとられ、困惑したように顔を引き攣らせた。
「はははっ!カイ、モテモテだね」
「いや、見てないでこいつら止めろよ」
「やだよ。折角面白いのに」
助ける気などさらさらないクリフに、カイは分かりやすく肩を落とし落胆した。勿論、そんなカイなどお構い無しに彼等の口論はヒートアップして行く。
「ちょっと、カイは私のよ!」
「いつからクレアの物になったんだよ!」
「あー!カイはポプリのだもん!」
「ちょっ、ポプリ、お前まで入って来たらややこしくなる!」
両腕にはクレアにグレイ。そして腰にはポプリと何とも面倒な状況にカイはげんなりとした。おまけに彼等は自分の話など聞き入れる様子すら無い。
「安心しなよ。僕はカイの取り合いなんて気持ち悪い事に参加する気更々ないからさ」
「いや、だから何とかしてくれよ!」
「こうなったら泳ぎで決着つけるぞ!」
「臨むところよ!」
「えー!ポプリ泳ぎ苦手……」
勝手にすすむ話にカイは遂に盛大な溜息をつく。しかし今の溜息と言うSOSのサインを誰が聴き入れるだろうか。
これからは巻き込まれる前に二人を止めよう。今日の失敗を反省し、カイは今年度のミネラルタウンでの過ごし方を決めたのであった。
「声、聞こえてる?」
(まあ、勿論俺の声なんて誰も聞いてなかったけどね!)