綺麗だね。そう気が付いたら言葉が溢れ出していた。
それを違う意味で捉えたのか、クレアさんは空を眺めたまま「そうだね」と笑った。その笑顔がまた、綺麗だった。

何時からだろう。彼女とこうして夜の山頂で空を眺めるようになったのは。
ああ、クレアさんが僕が自殺すると勘違いして飛び付いて来た時からだっけ?彼女の蒼白した顔を思い出してつい苦笑が零れる。
あれからクレアさんは度々ここに来るようになった。
そしてただ二人で夜空を眺めて、たわいもない話をするのだ。いつの間にかそれが僕の"当たり前"になっていた。

「なあに?私の顔、じっと見て」

どこか照れたようにクレアさんがそう言う。敢えて何も言わず、意味深に微笑めば、彼女は更に不思議そうな表情を浮かべた。僕の真意を探っているのだろうか。その姿ですら美しい彼女は、正直卑怯だと思う。

「初めてクレアさんを見た時、まるで星の様な人だなって思ったんだ」

「星?私が?」

「うん。とても眩しくて、手が届かない存在だと思った」

初めてクレアさんと出会ったあの日。毎日がただ後悔だった。悔やんで悔やんで、それでも悔やみ切れなくて、極力人との関わりを避けていたあの頃。そんな殻に閉じこもった僕に、クレアさんは光を差し込んでくれたんだ。
明るく話しかけてくる彼女が、ただ眩しかった。僕とは住む世界が違うのだと何度も目を逸らしたのに、彼女はいつまでも僕に光を導き続けてくれた。

「手の届かない存在、か……」

クスリと笑ったクレアさんは、手を伸ばしそのまま夜空へ翳す。僕はその動作をただ黙って見つめていた。
しばらく続けていたクレアさんだったが、急に空に翳していた手を降ろし、視線を僕へと向ける。そして微笑んだかと思えば、今度は僕の手を掴んだのだ。

「どうし……」

僕は言葉を飲み込んだ。
目の前には僕の手に頬をよせるクレアさん。月明かりに照らされたいつも以上に優しいその表情に眩暈さえ覚える。

「ほら。手、届いてる」

ゆっくりと紡がれたクレアさんの言葉に、固まっていた僕の表情は簡単に崩れ、緩んだ。
彼女の言葉の意味を確認するように指先に力を入れれば、クレアさんの温もりが伝う。

「……本当だね」

あの頃の僕は信じられないだろう。こんなにも近くに彼女を感じる事が出来るなんて。そして今は当たり前となったこの日々が、こんなにも幸せだなんて。

「ありがとう、クレアさん」

僕の言葉に、クレアさんは何も言わず微笑んだ。
嗚呼、僕は何処まで彼女に惹かれ続けるのだろうか。
あの頃から変わらないその笑顔に、僕はただ見とれていた。







この度はフリリク企画参加して頂き、ありがとうございました。
大変お待たせして申し訳ございません!

内容はお任せとの事で、敢えてうちでは珍しい白クリフに挑戦させて頂きました。楽しんで頂けましたら光栄です。
リクエスト、ありがとうございました!





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